新規事業と海外展開を同時に
日本電産は今、「第2の創業」とも言える大改革を加速させている。
これまで日本電産の成長を支えた精密小型モーターの市場が成熟するのに伴い、「車載」と「家電・商業・産業用モーター」という新たな柱を作り上げようとしているのだ(右グラフ参照)。
精密小型モーターに偏った事業構造から、3本柱への事業ポートフォリオの大きな転換。それをさらに加速させ、2016年度(予想)に1兆2500億円の売上高を2020年度に2兆円、2030年度に10兆円へと押し上げる計画を掲げる。
そのために2010年頃から進めているのが、欧米を中心にした海外企業の買収だ。車載事業については、もともと日本電産本体でパワーステアリング用モーターなどの一部を手掛けていたが、事業規模は小さかった。
家電・商業・産業用も、「(芝浦製作所モーター部門を買収した)日本電産テクノモータくらいで、ほとんどなかった」(家電産業事業本部長を務める大西徹夫・日本電産副社長執行役員)。
多数の海外企業を買収しているのは、足らない技術を補い、つなぎ合わせて新事業を創出するため。日本電産はこれまでに49社を買収してきたが、既に半数近い24社が海外企業となった。
ドイツのGPMも車載分野の有力企業だ。自動運転やクルマの電動化が進めば、モーターや制御装置と組み合わせた、より高性能のポンプが必要になる。そのための備えだった。
とはいえ、日本人もほとんどいないようなドイツの田園地帯にまで広がった買収先をどうまとめるのか。その原動力が、日本電産の名前すら知らなかったドイツ人たちをも引きつけた「永守イズム(経営哲学)」だ。
永守イズムの根幹は、永守社長が創業以来掲げてきた「情熱・熱意・執念」などの3大精神をバックボーンとし、「高成長」「高収益」を「スピード感」を持って必達目標とするところにある。
いずれも、高い目標を何としてでも達成しようとする社員の士気の高さと、実行する力が極めて重要になる。これらは、買収した業績不振企業を再建した1990年代半ばからの日本でのM&Aでも柱となったもの。その永守イズムを世界に広げることで、グローバル化と新事業創出の2つを同時に成し遂げようとしているのである。
「あの案件は、約150年の当社の歴史の中でも初めての大型プロジェクト。以前なら、こんな物を取りに行こうとは思わなかっただろう」

イタリア・ミラノにある日本電産ASI(NASI)のジョバンニ・バッラCEO(最高経営責任者)は笑顔をのぞかせながら言う。
「あの案件」とは、今年6月、ドイツ西部の大手発電会社STEAG向けに納入したエネルギー貯蔵システムのこと。電線を流れる電気の周波数を安定させ、停電などの障害を防ぐという新たな機能を持つシステムで、計6基を納入。合計で7000万ユーロ(約79億8000万円)という大きな商談となった。
バッラCEOは、この大型案件を受注できた要因として永守イズムを挙げる。NASIは、日本電産が2012年6月に買収したイタリアの産業用モーター大手、アンサルド・システム・インダストリーが前身。鉄鋼メーカーや石油・ガス会社で使用する大型モーターや発電機、制御システムを生産・開発する老舗企業だったが、市場は縮小し、業績は伸び悩んでいた。
バッラCEOは「永守社長は『そこには言い訳がある。目標を掲げ、達成するために何をすべきか、何が足りないのか、何を改善すべきかを明確にして必ず実行すべきだ』と指摘した」と振り返る。高い成長と利益を目指して、徹底的に突き詰める永守イズムだ。
永守社長は、グローバル化の推進力として自身の経営哲学を海外の買収企業にも広げようとしている。NASI買収の翌年、2013年8月にイタリアの自動車大手フィアット系の会社から移ってきたバッラCEOには、それが新鮮であり、納得できたという。
「井戸掘り経営」「千切り経営」「家計簿経営」。永守社長は、3大精神や高収益必達の思想とともに、自らが指針としてきた考え方を世界の子会社に教え込んでいる。
井戸掘り経営とは、経営課題などの改善・解決は、そのアイデアが出るまで徹底して続けるということ。千切り経営は、どんな難題も小さく分けて対処すれば必ず解決できるという考え方。そして家計簿経営は、収支管理を徹底すれば必ず利益を出せるというものだ。計画が未達になるのは、収支管理ができていないせいだとする。
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