人間の呼吸を模した表示ランプ

 格好の教材が「MacBook」。例えば、スリープ状態となると表示ランプが点滅するが、その輝度の変化は人間の呼吸をモデルにしたものだった。1分間に20回程度ゆっくりとついたり消えたりする。他社のパソコンの機械的な点滅と異なり、眺めていると癒やされ、気持ちが落ち着く効果があるとされる(2012年モデルまで。現行モデルは表示ランプ自体が廃止されたため、同機能を搭載していない。デザインを優先したためとみられる)。

「視覚」で癒やしを与える
アップル
<b>米アップルのノート型パソコン「MacBook」はかつてスリープ状態を示すランプを搭載。点滅が心地いいと話題に</b>(写真=Getty Images)
米アップルのノート型パソコン「MacBook」はかつてスリープ状態を示すランプを搭載。点滅が心地いいと話題に(写真=Getty Images)
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 ここで重要なのは、アップル自身がこの「ブリージングステータスLEDインジケーター」の特許を申請しその存在を明らかにするまで、多くのアップルファンが「自分がなぜ、意味もなくスリープ状態のMacBookを眺めるのが好きなのか」分からなかったことだ。

 アップルは明確に肯定してはいないが、MacBookは「顧客の視覚に訴え、無意識のうちに依存させる機能」を有していたことになる。

 今の時代に顧客を囲い込む最後の方法は、利用者の五感に訴えることだ。ここまで様々な囲い込み術を紹介してきたが、どんな方法でも、「囲い込もう」という企業側の意図が消費者に少しでも見透かされたら効果は半減する(PART3)。

 「五感吸引法」は、消費者の無意識下に訴えて依存を狙う方法だけに、その心配がない。さらに、五感は全人類共通。一度確立したノウハウは、アップルのように、国境を越えてもまず通用する。

 「視覚」を活用した顧客囲い込みの一例がアップル「MacBook」の表示ランプだとすれば、「嗅覚」を武器に顧客を集めているのが、新興菓子チェーンのBAKE(東京都目黒区)だ。2013年4月の設立で、売上高は約40億円。看板商品は、サクッとしたクッキー生地に3種類のチーズをブレンドしたムースが特徴のチーズタルトで、年間2000万個以上販売する。

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