「どうせ8カ所しか寄らない」

 「これが超便利。近所では『目的地探し』なんて使わない。使うのは遠出した時。で、うちの家族が遠出した時、どこに寄るかと言えば、確かにほぼほぼこの8カ所だけ(笑)。普通のカーナビならセブン一つ探すのも、『メニュー』やら『業種』やら何度も画面押さなきゃならない」(B氏)。モニターに表示された周辺のセブンのうち、どの店に行くか決める時、「トイレの有無」や「タバコの取り扱いの有無」で絞り込めることも気に入っているという。

 「買った時から既にカスタマイズされてる感じ」。B氏がそう感じるのも無理はない。B氏が購入したカーナビは最初から、「アルファードに乗る子育て世帯」を徹底的に意識して、開発されたものなのだ。

 アルパインは現在、アルファードのほか「ヴォクシー」や「ノア」などトヨタのミニバン7車種の専用機だけに事実上、市販用カーナビの商品開発を絞り込んでいる。国内における2015年の新車販売台数は約270万台だが、このうち7車種のシェアは50万台。そのうち対象となる子育て世代ユーザー分は約10万台、全体の約4%でしかない。

 逆に言えば、最初から96%の市場を事実上諦め、4%に全ての経営資源をつぎ込むからこそ、「顧客が本当に喜ぶ奥の深い商品開発」が可能になる。アルファード専用カーナビの各機能も、同車に乗る1000組以上の家族連れユーザーに、高速道路のサービスエリアや自動車販売店などで話を聞き、その行動パターンを徹底的に分析することから生まれた。

 「正直に言えば、今年65歳になる私には、既に自社のカーナビが使いにくい(笑)。でもそれは、それだけ狙っている30~40代の子育て世代にしっかりアジャストしている証拠。今後も、誰に向けて作るのか、ターゲットをとことん明確にした商品開発を続けていく」。アルパイングループで国内向け市販用カーナビの企画、販売を手掛けるアルパインマーケティング(東京都大田区)の岩渕和夫社長はこう強調する。

市場の100分の4だけ狙う
アルパインマーケティング
7車種の顧客に絞り込むことでより深い商品開発ができる。(写真は岩渕和夫社長)(写真=北山 宏一)

(写真=北山 宏一)
(イラスト=栗生 ゑゐこ)

 1967年に誕生し、パイオニア、パナソニックと「カーナビ御三家」と呼ばれたアルパイン。もともと全国各地に販売会社を構えていたが業績不振企業が多く、効率化のため2001年、「アルパインマーケティング」に統合した。大胆な集中戦略を始めたのは2006年からで、2009年には黒字化。以来、高い利益率を維持している。

 親会社のアルパインは、リーマンショック後の業績悪化から一時的に立ち直ったものの、2017年3月期は、円高による海外販売の不振などで最終赤字を見込む。それだけに、アルパインマーケティングにかかる期待は大きい。

 今の時代に顧客を囲い込むには、利用者を喜ばすための相当大胆な工夫の導入が欠かせない、とPART1で指摘した。そのためにまず有効なのは、アルパインのカーナビ開発のように顧客を思い切って「区別」することだ。

 「自社に利益をもたらす特定のユーザーを特別扱いし、知恵と資源を集中する。そのくらい思い切って初めて、顧客をうならせるサービスや商品が生まれる。お客様は店を選んで買っているのだから、店側もお客様を選ぶのは当然のこと」。顧客管理システムなどの開発を手掛ける日本NCR・寺子屋プロジェクト塾頭の大竹佳憲氏はこう話す。