年金財政の逼迫で到来する「無定年」時代。当然、働き手にも企業にも変革を迫る。まずは働き続けるシニア世代のリアルから見てみよう。それは現役世代の未来図でもある。

 老後の生活の糧を年金ではなく、自らの働きに頼る「無定年」時代を生き抜くには、どんな備えが必要だろうか。多くの企業で50代に訪れる役職定年が長く働き続ける人生を考える一つのきっかけとなるはずだ。

 大半の社員が役職を解かれ、賃金はそれまでより3~5割減る役職定年。閑職に追いやられるのを憂うのではなく、自分の将来を切り開くステップとして生かすことで、「無定年」時代は充実したものになるかもしれない。

 早い段階からの備えの重要性を教えてくれるのが、室芳樹氏(57)のケースだろう。

中小企業診断士仲間の櫻田登紀子氏(左)とビジネスプランを話す室芳樹氏(写真=北山 宏一)
室 芳樹(57)
役職定年を機に今年3月に退職。
中小企業診断士として働く道を選んだ。
収入23万円 支出41万円
仕事の報酬0~2万円 生活費など18万円
失業保険給付21~23万円 社会保険負担6万円
税金4万円
住宅ローンなど13万円

 室氏はもともと日本の大学を卒業した後、米国に留学し、大手家電メーカーで海外営業畑を歩んだ。だが、海外勢との競争激化で業績が悪化。48歳の時、早期退職制度を利用して退職し、当時の上司の紹介でプリンターメーカーに転じた。この会社ではそれまでのキャリアを評価されて経営戦略や中国事業を任されたものの56歳での役職定年を迎えたのを機に今年3月に退職、独立する道を選んだ。

 背中を押したのは40代の時に取得した経営コンサルタントの国家資格、中小企業診断士だ。海外営業で培ったスキルを武器に海外市場開拓を目指す中小企業を支援する仕事を手掛けようと考えた。

 とはいえ、単に「夢を追う」わけではない。まだ住宅ローンが残っている。子供も小学6年生とこの先も教育費はかかる。室氏は綿密に将来の収支をシミュレーションした。

 まず、前提に置いたのは100歳時点でも生活ができること。そして、自身の資産や貯蓄と、将来、受け取る年金の予想受給額から見込まれる収入を計算し、生活費や医療費などの想定支出額と照らし合わせた。65歳以降に年300万円ほど受け取れるはずの年金については、70歳までは貯蓄に回すことを条件にした。「健康なうちは働き続けたいから」と室氏は話す。

 そのシミュレーションからはじき出されたのが、少なくとも70歳までは仕事で年300万円は稼ぐ必要があるということだった。もちろん、大手企業でキャリアを積んできたからといって、すぐに室氏が仕事に就けるほど甘くはない。「中小企業診断士としての臨時収入はこの半年で10万円程度。退職してからの11カ月間は失業保険の手当が月に最大23万円あるが、年金や医療保険、介護保険の負担や税金などで毎月10万円近くが消えていく」。室氏の妻も働いてはいるが、「貯蓄を取り崩しているのが現状」だ。

 不安定な収入の室氏を同じ診断士仲間の櫻田登紀子氏(56)が励ます。「私も最初は苦労した。でも10年目で前職並みの収入になった」。大手企業で販売・宣伝のキャリアを積んだ櫻田氏はまずは潜在顧客となる中小企業経営者とのネットワーク作りが大切と説く。室氏もこう応じる。「今は将来に備えた『種まきの時期』だ」

 役職定年を一つの区切りに独立の道を選んだ室氏。一方で、定年後も会社に再雇用されて、とどまり続ける道もある。ただ、すんなりと再雇用される保証もない。それを示すのが、都内の研修会社を昨年、定年退職した松本宏氏(仮名、61)の例だ。