民生品分野で注目を集める技術が、防衛装備の国際共同開発や海外移転でもカギを握る官民が協力して進める取り組みが本格化し始めた。

「防衛省と関わるのは初めて。研究資金を確保できてよかった」。豊橋技術科学大学の加藤亮助教はこう胸をなで下ろす。
研究しているのはナノファイバーと呼ばれる極細の繊維素材だ。シート状に編み上げると有毒物質を吸着することができるので、建材などに使えばシックハウス対策になると見て研究を進めてきた。だが、最終的に実を結ぶかどうか見通せないテーマだけに、研究費の確保に苦しんだ。大学から支給された研究資金は「年20万円程度」(加藤助教)だったという。
加藤助教を救ったのは防衛省の外局である防衛装備庁が2015年度に始めた「安全保障技術研究推進制度(ファンディング制度)」だった。同制度を活用し、加藤助教はこれまでに800万円の研究資金を確保できた。制度をフル活用すれば、今年度と来年度に合計で最大6000万円を得られる。防衛装備庁の財布から出るカネは大学に比べ桁違いに大きかった。
もっとも、防衛装備庁が加藤助教に期待するのは建材の開発ではない。繊維シートをうまく応用すれば、有毒なガスを効率よく吸着する薄くて軽い防毒マスクを開発できる可能性がある。現状のマスクは装着すると息苦しく、身動きが取りづらい。加藤助教のアイデアが、課題解決に役立つと見込んだ。
ファンディング制度は防衛用途に応用できそうな基礎研究を広く公募し、資金を投じる仕組みだ。防衛装備向けに特化したものではない。
2015年度は「マッハ5以上の極超音速飛行が可能なエンジン実現に資する基礎技術」など28件の研究テーマを公表。大学や企業などの参加を募り、109件の応募の中から9件を選んだ。2016年度は44件から10件を採択している。
「資金を柔軟に使える。使い勝手のいい制度だ」。加藤助教と同じく、同制度に研究が採択された東京工業大学の吉川邦夫教授はこう満足げに語る。
手掛けるのは「可搬式超小型バイオマスガス化発電システム」。木くずや水分を含んだ有機ゴミからエンジンを傷めるタール分などを除去し、発電に利用できるようにする。装置はトラックで運搬可能なため、電力網が未整備の途上国や、燃料が不足しやすい被災地でも自衛隊が展開しやすくなると期待されている。
この制度から資金提供を受けているのは大学の研究機関ばかりではない。パナソニックや富士通、NECといった民間企業も送電や情報通信分野の研究で応募し、採択されている。
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