「受注したらどうしよう」
実は、日本勢の一部では、豪州政府が結果を発表する前から懸念の声が上がっていた。敗北を恐れたからではない。受注したらどうしようとの不安だ。
「豪州の労働者に技術指導しろと言われても、熟練工の人繰りに余裕はない。コストは誰が負担するのか」「性能や建造ノウハウは全て高度な機密。情報が流出した時の責任問題を考えると現地生産には関わりたくない」
4兆円という金額だけ見れば逃した魚は大きいように映るが、現場ではむしろ安堵する空気すら漂った。
日本の潜水艦は、ともに神戸に造船所を構える三菱重工と川崎重工の2社が交代で、年に1隻ずつ建造してきた。約1500社からなるサプライチェーンのどこを見ても、年1隻を瑕疵なく建造するために必要な設備と人員しか抱えていない。
潜水艦に代わる案件として脚光を浴びるのが新明和工業が生産する救難飛行艇「US-2」だ。3mの荒波の中でも水上離着陸が可能で、4500km以上の航続距離を誇る。2013年にヨットで太平洋を横断中に遭難したニュースキャスターの辛坊治郎氏を助けたことで一躍有名になった。
目下のところ、インドへの輸出に向けた商談がゆっくりと進んでいる。1機当たり120億円程度で10機以上の取引が想定される。
しかし、新明和に浮かれた様子は全くない。潜水艦と同様、生産体制が悩みの種だ。これまで防衛省向けに約3年に1機のペースで生産してきた。仮に輸出分が加われば現状の生産設備では対応しきれない。
深井浩司・常務執行役員は「一時的な輸出のために設備を増強しても、投下資金を回収する見通しが立たない」と打ち明ける。インド政府も国産化する意向を強めつつあり、政府間交渉の行方によっては現地に工場を建設するよう求められる可能性もある。
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