ネットTVの席巻は、視聴者からの受信料で成り立つNHKも揺さぶる。だが、籾井会長ら首脳陣は内紛に明け暮れ、思い切った決断に踏み切れない。世界の公共放送でネット同時配信が標準になる中、対応の遅れは致命傷になりかねない。

東京・渋谷のNHK放送センター外観。世界最大規模の公共放送は内紛で揺れている(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 「籾井さんについてだが…誤解される発言が結構ある。経営委員会からもコンプライアンス違反について注意を3回ほどしてきた」

 NHK(日本放送協会)の最高意思決定機関で、会長・理事の職務執行を監督する経営委員会。6月末、12人の委員を取りまとめる委員長に就任した九州旅客鉄道(JR九州)相談役の石原進氏は2秒の沈黙の後、籾井勝人会長についてこう語った。

 日本ユニシス特別顧問の籾井氏が2014年1月に会長に就任して以降、NHKは大きく揺れている。野党の反発から国会の予算承認は3年連続で全会一致に至っていない異例の事態が続く。

ネット対応と受信料義務化は一体
●NHKが抱える懸案事項
受信料制度改革
受信料制度の義務化を検討。視聴者からの反発を恐れ、局内には消極論が根強い
インターネット対応
テレビ番組のネット同時配信などネット活用拡大を検討。民放から民業圧迫との反発も
放送センター建て替え計画
移転計画が白紙に。8月30日、1700億円を投じて現在の敷地内に建て替える新たな計画を発表した
次世代放送インフラ
超高精細映像8Kの技術開発を進めている。放送方式が決まらず、本放送開始が後ズレする可能性も
ガバナンス不全
着服など子会社職員による不祥事が相次いでいる

 今年4月の熊本地震の際、籾井氏は局内会議で原子力発電所に関する報道を「政府の公式発表ベースで伝える」よう指示。東京・渋谷の土地を子会社が約350億円で取得する計画を経営委員会に諮らずに進めたり、技術系子会社職員らによる約2億円の着服が発覚するなど、ネガティブな事件が相次ぎ、イメージが低下している。

 石原氏は籾井氏を会長に推薦した過去を持つ。「2秒の沈黙」にはそんな苦渋の思いがにじんでいた。

 政府はこれまで籾井氏を後押しする姿勢を崩してこなかった。だが今年4月、潮目が大きく変わる出来事が起きた。籾井氏が自民党の郵政族議員や杉田和博官房副長官との“パイプ役”を担ってきた専務理事らを退任させたのだ。

 自民党郵政族議員の一人は「我々とつながる人間をすべて排斥した異常な人事。籾井氏が何を考えているのか分からないが、もう交渉するつもりがないということでしょう」と突き放す。

 自民党の小委員会は昨年10月、受信料支払い契約の有無にかかわらず、全世帯・事業者を対象にNHKの受信料を義務化すべきとの提言をまとめた。背景にあるのは、AbemaTVなどネット動画サービスの急拡大だ。

 受信料の義務化とネットサービス。一見すると無関係のようだが、両者は不可分の関係にある。

“暴走”する籾井会長に政府は介入を強める
●NHK首脳と政府関係者の相関図
(写真=籾井氏:時事、石原氏:時事、今井氏:読売新聞/アフロ、杉田氏:共同通信)