高級車で圧倒的実力を見せつけるドイツ勢に加え、テスラ・モーターズやグーグルといった米新興勢力も台頭する。表向きでは劣勢に見える日本勢。だが、逆転のシナリオはある。「大衆車」で実を結ぶ独自技術の開発だ。

8月24日、日産自動車は自動運転技術「プロパイロット」を搭載した新型「セレナ」を発売した。搭載モデルの価格は291万6000円から。高速道路の単一車線で、前方車と一定距離を保ちながら自動走行したり、前方車に合わせて自動停止したりできる。これらの機能はミニバンでは世界初だという。
新車発表会で国内販売担当の星野朝子・専務執行役員は、「(消費者の)最先端技術への期待は確実にある」と自信をのぞかせた。予約のうちプロパイロット搭載車が7割に達し、同社が見込んだ4割を大きく上回ったからだ。
単眼カメラが技術の肝
300万円を切る価格帯で自動運転を実現──。
自動運転という言葉の力も手伝って、一躍、話題の中心に躍り出た日産。それに対し、「あれは自動運転じゃない。レベル2の運転支援システムだ」(日系自動車メーカー技術者)という指摘があるのも事実だ。
日産はプロパイロットを自動運転ではなく「自動運転技術」と呼んでいるが、「消費者にとっては同じ。自動運転ではないのに自動運転と思わせるのはいかがなものか」(同)。実際、トヨタ自動車やホンダなどが投入している車種には、セレナと同等の運転支援機能が搭載されている(下の図)。
では、セレナは何が違うのか。それは技術の中身を見なければ分からない。
「セレナは大衆車だが、技術は世界最先端」。こう話すのは、日産AD&ADAS先行技術開発部の飯島徹也部長だ。世界最先端とは、フロントガラスの上に取り付けた単眼カメラを指す。
他社では渋滞追従を実現するために、単眼カメラだけでなくミリ波レーダーやレーザーレーダーを積むが、セレナは単眼カメラのみで同じ機能を実現できる。イスラエルのベンチャー企業、モービルアイと共同開発した画像解析技術が生きた。
ミリ波レーダーやレーザーレーダーは、物体の存在やクルマからの距離を認識するのには適しているが、その物体が何かを判断することはできない。単眼カメラでは、前方にある物体がクルマなのかどうか、道路上のラインが車線なのかどうかを、形状や配置などから判断ができる。
物体との距離を測ることもできるため、必ずしも各種レーダーを積む必要はない。それでも各社が積んでいるのは、「急な割り込みなどに対応できるほど単眼カメラの処理能力が高くないため」(飯島部長)だという。
その弱点を克服するため、セレナはモービルアイが開発した最新の制御基板を搭載した。その上で、処理能力を高めるために日産独自で改良を加えた。「単眼カメラだけでACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)も車線キープもできるのは恐らく世界初」(同)。
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