クルマが責任を持つ
助手席に乗車し、走り出すと、助手席正面に設置されたディスプレーに、センサーが認識した前方車両がブロック状で表示された。画面を切り替えると、レーザーレーダーが読み取った障害物なども重ねて表示される。車線変更する際に、左右の車線に空間があるかどうかも表示されている。
アウトバーンに入ると、計器パネルに「READY」の文字が表示された。運転手がハンドル脇にあるボタンを押すと、自動運転モードが始まった。
ぐんぐんと速度を上げ、3車線のうち最も左側に車線変更。最高速度は時速130kmに設定されていたが、道路標識をカメラが読み取り、制限速度である時速120kmを維持した。
この間、運転者は何も操作をしていない。アウトバーンは多少混雑していたが、加減速や車線変更は極めて滑らかで、何の違和感もなかった。
「レベル3」──。PT1は、世界中の自動車メーカーが目指す次の段階に到達しつつある。右の表のように、レベル3は自動運転と手動運転を切り替えられる段階を指す。自動運転モードの最中は、原則としてクルマが運転の責任を持つ。既に実用化されているレベル2とは大きく違い、運転者が常に視線を前方に向ける必要さえない。
しかも、BMWが目指すのは単なるレベル3ではない。運転者や人がより「自然だ」と感じ、周辺のクルマにとって迷惑にならない振る舞いを目標とする。市場に投入した場合、必ず他のクルマとの協調が必要になるからだ。製品化の最終段階にあるとも言える。
より高みを目指すために、PT1にはある新技術が搭載されていた。軍事技術である「弾道学」を取り入れたアルゴリズムだ。ミサイルの軌跡を予測するように、センサーで認識した周辺のクルマの動きから、数秒後までの動きや位置を予測する。クルマよりも先に自動運転化が進んだ航空業界で、採用の議論をしている最先端の技術だ。
「まさに今の状況は、弾道学でスムーズな運転が可能になった場面だ」
試乗が終わりに近づいた時、同乗したエンジニアはそう説明した。中央車線を走行中、前方車両を追い越すために左車線に入ろうとした。その時、右車線の大型トラックが、前を遮るようにして左側に2車線分コースを変更してきたのだ。
PT1は右から接近するトラックの動きを予測し、速度を落としながら、やり過ごすようにしてスムーズに左車線に入った。軌道を予測しない従来型試作車では、同じような状況では急ブレーキを踏んだり、自動運転で対応できなくなって手動運転に切り替えざるを得なくなった可能性が高い。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り1514文字 / 全文文字
-
U29対象デビュー割実施中!5/31締切
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
日経ビジネス電子版有料会員になると…
特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題
ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題
日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題
この記事はシリーズ「特集 ここまで来た自動運転」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?