<b>500円で手軽に魚が食べられるさくら水産の日替わり定食は、人気で毎日行列ができる</b>(写真=村田 和聡)
500円で手軽に魚が食べられるさくら水産の日替わり定食は、人気で毎日行列ができる(写真=村田 和聡)

 東京・天王洲アイル。多くの高層ビルが集中する都心でも有数のオフィスビル街には、ビジネスパーソンの胃袋を満たす飲食店がずらりと軒を連ねる。正午を過ぎると多くの人でにぎわいを見せるが、その中でひときわ行列の長い店がある。海鮮居酒屋チェーンの「さくら水産」だ。

 この店で1日300食は出るというランチメニューの中で一番人気は500円の日替わり定食だ。魚料理にご飯と味噌汁、お新香と生卵が付く。魚以外は食べ放題だ。そのボリュームと価格ゆえにファンも多い。8月のある金曜日のメニューは「あじ開き焼き大根おろし添え」。皿からはみ出んばかりのアジを前に、ご飯をかきこむ姿が目立つ。

 しかし、そのにぎわいとは裏腹に店側は大きな問題で悩んでいる。魚の仕入れ値が高くなる一方で、採算を取るのが難しくなってきたからだ。さくら水産の運営会社、テラケンで海産物の調達を担う孫崎英幸は「安い買い付けルートを開拓するなど、企業努力で何とか利益を出している状態だ」と話す。

 さくら水産は全国で約70店展開している。日替わりランチは全店同じメニューで毎日およそ5000食分の食材を確保する必要がある。旬の魚をそろえたいと考えているが、メニューから次々と人気の魚が消えていく。

 サケは2~3年前から欧米、アジアの魚食ブームが価格を押し上げた結果、仕入れ価格が2倍近くとなった。シマホッケは乱獲の影響で価格が上昇しているだけでなく、サイズが小型化している。こういった採算が取れなくなった魚がメニューから消えている。

ワンコインランチから消えたメニュー
ワンコインランチから消えたメニュー

 今、調達担当者の頭を悩ませているのは秋の風物詩、サンマだ。ランチタイムのみならず夜の居酒屋でも人気の食材だが、中国や台湾が大型船を使って漁獲を増やしており、日本での流通量が激減している。

 さくら水産では長らく、夜メニューでサンマの塩焼きを1匹190円で提供していた。しかし、2年前は280円、昨年は390円または290円での販売を余儀なくされた。低価格を維持するのが難しくなっている。「価格だけでなく在庫の見通しも予測しづらく、販促もしにくくなっている」と、営業を統括する執行役員の曲谷昌亮は渋い顔で話す。

銀ダラの価格は2倍以上に

 魚を主に扱う外食企業のみならず、小売りの現場でも多くの魚がひっそりと売り場から姿を消している。

 一昔前まで照り焼きや西京漬けとして食卓に上り、銀むつと呼ばれていたメロ。南極周辺に生息する大型深海魚で近年価格が高騰している。「海外で需要が増え、5年前まで1kg2000円くらいだった市場価格が、今では3800円。スーパーなどの小売店で販売できる仕入れ価格を大きく上回り、日本は買い負けの状態だ」と、マルハニチロで水産部門を統括する取締役専務執行役員、中島昌之は話す。

 メロはもともと米国でソテー用として引き合いが強い。これまで米国と日本が二大消費地だったが、ここにきて中国や香港でも人気が出て価格が上がっている。日本では比較的価格の安い頭の部分(カマ)を輸入するなどして対応していたが、現在はそれすら手の届かない状況だという。

 スーパーの売り場に必ず置いてあった銀ダラも今や入手困難な魚となった。市場価格はこの5年で2倍以上の1kg2600円前後となった。

 健康志向の高まり、BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザなどに対する不安もあって、世界の魚食に対する関心は高まった。中国や東南アジアの所得水準の上昇で、これまで魚を食べなかった人々も食べ始めた。そんな世界の魚食ブームが価格上昇を招いている。水産物の約半分を輸入に頼る日本は、この影響を大きく受けている。

次ページ アベノミクスによる円安も逆風