世界中で大ブームとなった「ポケモンGO」は、ビジネスや社会にどのような影響をもたらすのか。プラス・マイナスの両面から、衝撃の大きさを、それぞれの視点で評価してもらった。

イノベーションの本質を突く

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授<br><span>楠木 建氏</span> くすのき・けん 
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授
楠木 建氏 くすのき・けん 
1964年生まれ。専門は競争戦略とイノベーション。『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)がベストセラーに。企業への助言も数多く手掛ける。(写真=陶山 勉)

 ポケモンGOはイノベーションの本質を理解する格好の事例だ。イノベーションとは、製品やサービスの価値基準が根本的に変わるということ。例えば、スマートフォンの動作速度が上がって使いやすくなっても、スマホという製品の「良さ」は変わらない。これは「進歩」だ。

 一方、ポケモンGOは、スマホの「良さ」そのものを非連続に変えた。バーチャルに閉じていたゲームの世界を、位置情報とAR(拡張現実)で現実の世界に持ち込んだ。誰もがスマホ片手にぞろぞろ歩く姿は不気味に見えるが、進歩ではなく良さの本質が「路線転換」をしたのだから仕方ない。

 企業のマーケティングに与えるインパクトは大きい。消費者がモノを買うまでには、広告などを「見て」「読んで」「注意を払い」「店などに行き」「カネを払う」という段階を踏む必要があった。インターネットが普及し始めてから約20年、膨大な情報が氾濫し、カネを払うまでのハードルは上がる一方だった。

 しかし、ポケモンGOは、利用者をいきなり店まで誘導し、カネを払う直前まで動かすことが可能なことを示した。マーケティングや観光など応用事例は無限にある。「歩きスマホ」など様々なリスクはあるが、サービスの進歩に伴って回避することは可能だろう。(談)

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