老若男女を熱狂させた「ポケモンGO」に、企業も自治体も熱い視線を送る。人を動かす“位置情報ゲーム”が、常識を覆すビジネスを生む潜在力を秘めることが明らかになった。
8月10日、炎天下の鳥取砂丘。観光客が汗をかきながら高台の通称「馬の背」を目指している。例年と違うのは「ポケモンGO」と砂丘観光を同時に楽しむ人々がそこら中にいることだ。
神奈川県在住で中学3年の森本恒太さんもその一人。家族旅行で鳥取砂丘を訪れ、小学6年の弟と一緒に遊んだ。「砂場で足を取られて大変だったけれど、けっこう楽しかった」。
鳥取砂丘には100を超える「ポケストップ」がある。半径約20m以内に近づくとポケモンを捕獲するアイテムなどが手に入り、ポケモンも出現しやすくなる。さらに、ポケモン同士を戦わせる「ジム」も9カ所ある。日本でポケモンGOが配信された7月22日の直後から「聖地」と騒がれた。
この“騒動”を即座に利用したのが鳥取県だ。7月25日、「鳥取砂丘スナホ・ゲーム解放区宣言」と称してユーザーを歓迎すると表明。砂丘は全国有数のポケモンGOスポットとなった。
砂とスマートフォン(スマホ)を掛け合わせたダジャレを考えたのは平井伸治知事。「砂丘目の前のおみやげ物屋さんも繁盛して2割ほど収益が増えたと聞いている。夜中でもお客様がなかなか途切れない」と、したり顔だ。
県は急きょ、砂丘に通じる階段に足元を照らす照明を設置。さらに、「とっとりGO」と冠した特設ページも開設した。県内の名所とポケストップの密集地が重なるエリアを案内していく。
平井知事は「(開発元の)ナイアンティックが取り組みを評価してくれた。一緒にどんなことができるか相談している」とも明かす。ナイアンティックとは砂丘でのイベント開催などを検討していく模様で、今後、さらに砂丘が盛り上がる可能性もある。
「スナホ」で「もうけものGO」

私は、別に野放図にゲームをということではなく、むしろきちんとマナーを守りながら自然も楽しんでもらうという、新しいポケモンGOの楽しみ方を「スナホ・ゲーム解放区宣言」で提案したかったんです。現状、ゴミ問題もないですし、ポケモンGOをやっていて熱中症になった方もいないので、安心しているところです。
一番ありがたかったのは、ポケモンGOのおかげで夏休みを前に鳥取砂丘という旅行の「目的地」が多くの方々に認知されたこと。現に飛行機の予約率なども昨年よりだいぶ上がりました。
砂丘でも、これまでは「馬の背」という高い場所に駆け上がって記念撮影するだけで帰られる方が多かったのですが、ご家族連れも含め、多くのユーザーが、ポケモンGOでモンスターを捕まえるために砂丘全体に足を運んでくれている。これも、本当にうれしいことなんです。
ポケストップが密集している少し草が生えている場所は今の季節、ハマニガナというきれいな花が咲きます。夜に行けば、砂丘からイカ漁のきれいないさり火を見渡すことができる。仮想空間と現実空間の組み合わせで、新しい砂丘が出来上がり、砂丘観光の幅も広がったということだと思っています。
私どものような地方自治体は、砂に埋もれてしまうわけにはいかない。砂の上に出て発信をするタイミングを上手につかみたかった、という背景もあります。ポケモンGOのために来たら、実は自然の宝庫だった、夜はこんな素晴らしい光景だったと写真に撮っていただいて、ネットにアップしてくれれば、我々としては正直、もうけものなんです。
最近、鳥取県は「乗っ取り県」と言われていますが、ポケモンGOの波にも乗っかっていこうと。その意味で、多くの方に認知され、来ていただき、本当に「もうけものGO」だと思っています(笑)。(談)
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