6月に引退を撤回したソフトバンクグループの孫正義社長が、人生最大の賭けに出た。7月、約3.3兆円で英半導体大手のアームを買収。もはや、常人には理解不能な展開だ。どんな近未来を描いているのか。それは、孫社長にしか説明することができない。
(井上 理、主任編集委員 田村 賢司、水野 孝彦、大西 孝弘=日経エコロジー)

僕は超知性と人類の幸せは、
ハーモナイズできると思っている。
ソフトバンクグループが生まれ変わろうとしている。前兆はあった。
孫正義社長(58歳)が後継者に指名していたニケシュ・アローラ副社長(48歳)。その退任が6月21日に突然、発表されたのは記憶に新しい。
孫社長は翌日の株主総会で「AI(人工知能)への情熱を捨て切れなかった」とだけ語ったが、既にこの時、照準は定まっていた。7月18日に約3.3兆円で買収すると発表した英半導体大手のアーム・ホールディングスだ。
アームは、スマートフォン(スマホ)やタブレットなどの頭脳と言える「CPU(中央演算処理装置)」の設計開発を手掛け、スマホ向けでは世界で95%もの市場シェアを誇る。パソコン向けのCPUで覇権を握る米インテルとは違い、自社で製造せずに設計図などの知的財産を半導体メーカーに売ることで稼ぐという特徴がある。
あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」への投資も拡大しており、小型機器向けマイクロコントローラーの市場シェアは約25%まで伸びた。
ソフトバンクグループはこの企業を買収し、どうしようというのか。孫社長はどんな近未来を予見し、人生最大の賭けに打って出たのか。
「私は常に7手先まで読みながら碁の石を打っていく。まあ、分かる人には分かるし、分からない人には分からない」──。英国で開いた買収記者会見でこう語った孫社長。ならば、本人の口から説明してもらおう。
まだ、隠しておきたい部分がいろいろとあるんですよ。どうせ言っても信じてもらえないでしょうしね。けれども、せっかくですから、今日は少し、本音のところを話したいと思います。
僕は「シンギュラリティー」は必ずやってくると信じている。つまり20年とか30年という時間軸で、人間が生み出した人工知能による「超知性」が、人間の知的能力をはるかに超えていくと。一度超えると、もう二度と人類が逆転できないほどの差が開いていくと思うんですね。