李氏が認めた「情熱」

 李氏はLINEの前身である日本法人のネイバージャパンに対して、最初から自主性を重んじていた。

 一度、日本市場を撤退してから約3年後の2008年、韓国の検索サービスのトップを務めていた慎ジュンホ氏に再挑戦を託した李氏は、餞別代わりに以下の言葉を託したという。

 「韓国で今まで経験したこと、常識としていたこと、成功体験は全部頭から消して行きなさい。海外に行けばその国のことを中心に考えるべきで、その国のユーザーのことを最も理解しなければいけない」

 現在、LINEの取締役CGO(最高グローバル責任者)を務める慎氏は李氏の言葉をそしゃくし、ネイバージャパンの礎を築いた。取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)を務める舛田淳氏など日本人のメンバーを取り込み、何とか日本市場に爪痕を残そうと、あらゆるサービスを開発してはリリースする日々。だが、なかなか結果を出せない。

 その間、李氏は韓国と日本を毎月のように行き来しながら、親のように寄り添った。慎氏や舛田氏らと酒を酌み交わし、相談に乗り、育つのを待った。

 韓国ではネットのトップ企業でしたが、日本では知名度も存在感もほとんどありませんでした。トップと底辺を同時に経験したのです。

 その時、働いている人の「情熱」や成長への思い、サービスへの姿勢というのは、ネイバージャパンの方が強いということを強く感じました。

 非常に大変な時期でしたが、第二の創業のような、ベンチャーならではの情熱を経験できたことは、私にとって非常に幸運だったと思います。

グループ内競合を良しとする

 再挑戦から約4年。慎氏や舛田氏が進退をかけ背水の陣で臨んだ新事業が、2011年6月開始のLINEだった。

 実はネイバーも独自に開発したメッセンジャーアプリ「NAVERトーク」を同年2月から韓国で展開していた。「カカオトーク」というメッセンジャーアプリに押され、韓国のモバイル市場で劣勢だったネイバーが起死回生を託して投入したアプリだ。

 李氏は悩んだ揚げ句、「LINEの普及をグループとして後押しすべき」と判断、NAVERトークを捨てる決断をした。「ネイバーの開発メンバーには心苦しい思いをし、酒をたくさん飲んだ」と李氏。しかし、これが“親”として最後のサポートとなった。

 李氏はLINEを韓国本社に「吸収・併合」することはせず、ネイバージャパンをLINEへと社名変更するなど、独立性を守った。そしてLINEは矢継ぎ早に周辺サービスを拡充していった。

 2013年4月にマンガ配信の「LINE マンガ」を、昨年12月には動画配信の「LINE LIVE」を開始している。一方、ネイバーはネイバーで同様のサービスを磨いていった。

 雑誌市場が廃れていた韓国で大ヒットさせたマンガ配信の「Webtoons」を強化、海外での読者獲得に乗り出している。昨年7月に開始したK-POPアーティストの動画配信「Vアプリ」のダウンロード数は、配信から1年で世界 210カ国・地域、2000万件となった。李氏はこの2つをグローバル市場攻略のカギと位置付け、今年中にも北米市場の開拓を本格化させる考えだ。

 独立独歩で別の道を歩み始めた親子。親はまた、新たな子を作り、それがLINEと競合し始めたから面白い。

 ネイバーは2013年、LINEのような爆発力のあるサービスが生まれることを期待して、キャンプモバイルという子会社を韓国で設立した。その子会社が、自撮り動画アプリの「SNOW」を大ヒットさせたのである。

 自分の顔に眉毛や鼻などのデコレーションをして楽しむアプリ。2人や3人で映ると、それぞれの顔が入れ替わる機能もあり、韓国や日本、台湾などの若い女性に一気に普及した。昨年9月の配信から約10カ月で4000万以上のダウンロードを記録している。

 LINEはこれに真っ向勝負を仕掛けた。今年5月、SNOWとほぼ同じ機能のアプリ「egg」を投入。国内ではeggがSNOWと並び、無料アプリランキングの首位を競うほどの人気となっている。李氏はどう眺めているのか。

 パソコンの時代に成長したネイバーは巨大な組織になりました。このままスマートフォンの時代を迎えたら、ネイバー自体が崩れてしまうかもしれないという危機感がありました。そんな折にLINEが大成功したので、ネイバーそのものも、もっと子会社を作って細かく分割する方向性を決めたんですね。その一つが、キャンプモバイルです。

 小さくするとスピードが出ますし、責任感も強くなる。グループ内で競合になってしまうといった問題が付きまといますが、健全な競合ならある程度はあっていいと思っています。

 ただ、内部で競合しているうちに巨人プレーヤーに殺されてはいけない。適切な調整、コントロールが必要なこともありますね。だから私は今でも日本と韓国を行き来しながら、協力できるものは協力し、調整できるものは調整できるように、と話をしている。それが私の役目だと思います。

 SNOWとeggは…、そうですね、またお酒をたくさん飲むしかないのかなと思っています(笑)。