韓国インターネット大手のNAVER(ネイバー)は、グループからLINEを生み出すことで、閉塞感を突き破った。ネイバーとLINEは、ボーダーレス時代の新たなグループ経営のあり方を象徴している。
7月、米ニューヨーク証券取引所での上場セレモニーに参加するLINEの幹部
生き馬の目を抜くインターネット産業。しかも米国の巨人が世界を支配しつつある中、グループから1兆円近い価値の子会社を生んだ企業がある。韓国ネット大手のネイバーだ。
子会社の名はメッセンジャーアプリ大手のLINE。元はと言えば、韓国ネイバーの単なる日本法人だった。
それが、LINEという独自のサービスを作り、国境や資本に縛られず隆々と成長を続け、7月には米ニューヨークと東京、2つの証券取引所への同時上場まで果たした。時価総額は上場発表時の約6000億円から約8630億円(7月25日時点)まで膨らんでいる。
ネイバー創業者 LINE会長
李海珍(イ・ヘジン)氏
1967年6月生まれ、49歳。NAVER Corporation(ネイバー)創業者・取締役会議長、LINE取締役会長。90年ソウル大学コンピューター工学科卒、92年KAIST(韓国科学技術院)で修士号取得、同年韓国サムスンSDS入社。99年ネイバー設立、社長就任。2004年より現職(写真=シン・スクミン)
資本の上では上場後もLINE株の83%を保有する親会社のネイバー。そのトップは、グループの将来をどう考えているのだろうか。ネイバー創業者でLINE取締役会長も務める李海珍(イ・ヘジン)氏が、グループ経営に対する独自の経営哲学を語った。
私は「子会社」に対して、ネイバーより下だとか、私が所有しているだとか、そういった思いはありません。最初はサポートしてあげるべき存在だと思っています。サポートをして、十分、自立する資格を見せてくれたら、思う存分、自由にさせてあげる。LINEはその資格を十分に備えています。
親会社の立場からすると、子会社が独立していくことで、何か「もったいないな」と思うかもしれません。でも、あるタイミングになるとお互い独立した存在として付き合うべき。親と子供の関係と同じですね。
私も息子が大学生になりました。言いたいこともありますが、「干渉」してしまうと私が息子の将来を潰すかもしれないので、我慢しています(笑)。
李氏が認めた「情熱」
李氏はLINEの前身である日本法人のネイバージャパンに対して、最初から自主性を重んじていた。
一度、日本市場を撤退してから約3年後の2008年、韓国の検索サービスのトップを務めていた慎ジュンホ氏に再挑戦を託した李氏は、餞別代わりに以下の言葉を託したという。
「韓国で今まで経験したこと、常識としていたこと、成功体験は全部頭から消して行きなさい。海外に行けばその国のことを中心に考えるべきで、その国のユーザーのことを最も理解しなければいけない」
現在、LINEの取締役CGO(最高グローバル責任者)を務める慎氏は李氏の言葉をそしゃくし、ネイバージャパンの礎を築いた。取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)を務める舛田淳氏など日本人のメンバーを取り込み、何とか日本市場に爪痕を残そうと、あらゆるサービスを開発してはリリースする日々。だが、なかなか結果を出せない。
その間、李氏は韓国と日本を毎月のように行き来しながら、親のように寄り添った。慎氏や舛田氏らと酒を酌み交わし、相談に乗り、育つのを待った。
韓国ではネットのトップ企業でしたが、日本では知名度も存在感もほとんどありませんでした。トップと底辺を同時に経験したのです。
その時、働いている人の「情熱」や成長への思い、サービスへの姿勢というのは、ネイバージャパンの方が強いということを強く感じました。
非常に大変な時期でしたが、第二の創業のような、ベンチャーならではの情熱を経験できたことは、私にとって非常に幸運だったと思います。
グループ内競合を良しとする
再挑戦から約4年。慎氏や舛田氏が進退をかけ背水の陣で臨んだ新事業が、2011年6月開始のLINEだった。
実はネイバーも独自に開発したメッセンジャーアプリ「NAVERトーク」を同年2月から韓国で展開していた。「カカオトーク」というメッセンジャーアプリに押され、韓国のモバイル市場で劣勢だったネイバーが起死回生を託して投入したアプリだ。
李氏は悩んだ揚げ句、「LINEの普及をグループとして後押しすべき」と判断、NAVERトークを捨てる決断をした。「ネイバーの開発メンバーには心苦しい思いをし、酒をたくさん飲んだ」と李氏。しかし、これが“親”として最後のサポートとなった。
李氏はLINEを韓国本社に「吸収・併合」することはせず、ネイバージャパンをLINEへと社名変更するなど、独立性を守った。そしてLINEは矢継ぎ早に周辺サービスを拡充していった。
2013年4月にマンガ配信の「LINE マンガ」を、昨年12月には動画配信の「LINE LIVE」を開始している。一方、ネイバーはネイバーで同様のサービスを磨いていった。
雑誌市場が廃れていた韓国で大ヒットさせたマンガ配信の「Webtoons」を強化、海外での読者獲得に乗り出している。昨年7月に開始したK-POPアーティストの動画配信「Vアプリ」のダウンロード数は、配信から1年で世界 210カ国・地域、2000万件となった。李氏はこの2つをグローバル市場攻略のカギと位置付け、今年中にも北米市場の開拓を本格化させる考えだ。
独立独歩で別の道を歩み始めた親子。親はまた、新たな子を作り、それがLINEと競合し始めたから面白い。
ネイバーは2013年、LINEのような爆発力のあるサービスが生まれることを期待して、キャンプモバイルという子会社を韓国で設立した。その子会社が、自撮り動画アプリの「SNOW」を大ヒットさせたのである。
自分の顔に眉毛や鼻などのデコレーションをして楽しむアプリ。2人や3人で映ると、それぞれの顔が入れ替わる機能もあり、韓国や日本、台湾などの若い女性に一気に普及した。昨年9月の配信から約10カ月で4000万以上のダウンロードを記録している。
LINEはこれに真っ向勝負を仕掛けた。今年5月、SNOWとほぼ同じ機能のアプリ「egg」を投入。国内ではeggがSNOWと並び、無料アプリランキングの首位を競うほどの人気となっている。李氏はどう眺めているのか。
パソコンの時代に成長したネイバーは巨大な組織になりました。このままスマートフォンの時代を迎えたら、ネイバー自体が崩れてしまうかもしれないという危機感がありました。そんな折にLINEが大成功したので、ネイバーそのものも、もっと子会社を作って細かく分割する方向性を決めたんですね。その一つが、キャンプモバイルです。
小さくするとスピードが出ますし、責任感も強くなる。グループ内で競合になってしまうといった問題が付きまといますが、健全な競合ならある程度はあっていいと思っています。
ただ、内部で競合しているうちに巨人プレーヤーに殺されてはいけない。適切な調整、コントロールが必要なこともありますね。だから私は今でも日本と韓国を行き来しながら、協力できるものは協力し、調整できるものは調整できるように、と話をしている。それが私の役目だと思います。
SNOWとeggは…、そうですね、またお酒をたくさん飲むしかないのかなと思っています(笑)。
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