庶民感覚が抜けない新勢力

 古田氏にしろ原田氏にしろ、若い新興企業家の中には、富裕層になってからの日が浅く庶民時代の金銭感覚が抜け切らない人が少なくない。それは約120億円の資産を築いたベンチャー経営者、田辺光一氏(仮名、45歳)でも同様という。前出の2人との違いは、自分で価値があると判断すれば、数億円の価格でも購入すること。最近も米ニューヨークのオークションで数点の美術品を落札し、最も高いものは1点6億円したという。

気に入った美術品なら数億円でも買う。もっと価値があると思っているので、消費した気はしない(写真=ユニフォトプレス)
資産120億円でも
クルマや時計買う気なし
田辺氏(45歳)の履歴書
[職業]ベンチャー経営者
[略歴]洋服の個人通販 会社員 5年で退社、会社設立 大型資金調達
[総資産]120億円
[愛車]なし
[住まい]高級賃貸
[最近の関心事]転居先の1億円かけた改装の仕上がりが楽しみ。日本のプライベートジェットが高すぎる

 逆に言えば、「別に人並みで構わない」と思うことには、庶民時代同様、ほとんどおカネを使わない。クルマや時計は価値を感じないので買う気が起きず、食事についてもこだわりはなし。取材日の昼食は新入社員のウエルカムランチを兼ねた会議で、近所の店で1000円のサラダを食べたという。

 「日本にはおカネを払いたいと思える価値のあるサービスが少ない」と話す田辺氏。「高級店予約サービス」も「宿泊型クルーズ」も「非日常体験旅行」も「豪華リゾート」も、理由はどうあれ、お眼鏡にはかなっていない。

 巨額の資産を持ちながら仕事中心でぜいたく消費に関心が薄いのは、資産8億円の南田明氏(仮名、53歳)も同様だ。何一つ不自由のない暮らしを目指し、保険会社の営業から脱サラ。不動産投資と金融系企業の経営で現在の資産を築いたが、「価値観はあまり変わらない」という。家電を買う時は値段を気にするし、何万円もする食事はめったに行かない。別荘を建て、子供2人を私立中学に送り、今やっているぜいたくは、かつて夢見た「ホテルでランチを食べること」だという。

5棟の賃貸マンションを経営し、家賃収入で生活。積み上げた資産を元手に会社も設立(写真=ユニフォトプレス)
今の最大のぜいたくは
一流ホテルで高級ランチ
南田氏(53歳)の履歴書
[職業]不動産投資家、経営者
[略歴]大卒大手保険会社営業 30歳で投資の勉強 37歳で家賃収入が年1000万円退社会社設立
[総資産]8億円
[愛車]トヨタ・クラウン
[住まい]所有するマンションの1室
[最近の関心事]子供の将来。おカネが欲しければ投資をしろと教えている。自分は、もう消費には関心がない

 こうして見てくると、PART1でぬぐえなかった、新興の富裕層に対する疑問も氷解する。彼らは、新旧の富裕層ビジネスどころか消費自体に強い関心がないのだ。

 仕事への意欲に比べ全く消費に消極的な4人の企業オーナー。実はその傾向は、本誌が5年前の特集に伴い実施した富裕層調査の結果とも合致する。その時の調査から導き出した富豪企業家の共通点は以下の通りだ。

  1. 「金持ち歴」が浅く、おカネの使い方を知らない。
  2. 周囲の目を気にして、消費を控える。
  3. 猛烈に忙しく、余暇を楽しむ時間がない。

 当時取材した企業オーナーの多くは、高度成長期に勃興した60~70代の製造業経営者だった。それだけに、20~40代中心の新勢力は従来型企業家とは違う消費観念を持っているかとも思われたが、むしろ①~③の傾向はより強まっていると言っていい。

 新たに台頭してきた若き企業家でさえこうなのだから、もともと倹約家が多い従来型の企業家は一段と財布のひもを締めていても不思議ではない。

 野村総合研究所で金融を担当する宮本弘之主席コンサルタントは「リーマンショック後、特に中小企業経営者は想定外の事態に備えるため会社の借り入れを減らすのみならず、個人の消費も堅実志向を強めていった」と解説する。理美容チェーンを経営する2代目社長、鳥越聡氏(仮名、52歳)もそんな倹約企業家を地でいく人物だ。