この国の富裕層の大半は「企業オーナー」「医師」「地主」の3職種が占めている。消費に対する考え方は人それぞれだが、いずれの富裕層にも共通することが1つある。「少なくとも国内で、今から大きなカネを使う予定はない」だ。

 この国のお金持ちはどういう人たちでどんな消費をしているのか。この問いに正確に答えるのは想像以上に難しい。理由は単純明快、どこの誰が富裕層なのか確実に知るすべがないからだ。

 以前は所得税額1000万円以上の人を対象に高額納税者名簿が発表され、氏名や住所、所得税額を把握でき、そこから所得まで推計できた。が、プライバシー保護の観点から2005年で納税者名簿が廃止。今では、国税庁が毎年発表するデータなどから「年収1億円以上の人が約2万人(16年)」といった外形的情報が推計できるのみだ。

富裕層調査の2つのバイブル

 そんな中、富裕層の実態を知るための貴重な資料が2つある。一つは、05年発表の、京都女子大学客員教授で京都大学名誉教授の橘木俊詔氏と甲南大学の森剛志教授による、所得1億円以上の9000人を対象にした富裕層調査。もう一つが、市場調査会社ランドスケイプ(東京・新宿、福富七海社長)が公表している独自試算だ。

 前者は、これまでベールに包まれていた富裕層の実像を詳細に明らかにした点、後者は、同じく判然としなかった富裕層の職業別内訳を、試算とはいえ明快に割り出す点が特徴だ。

 この2つの調査を総合した結論は以下の通りとなる。

  1. 日本の富裕層の大半は企業オーナー、医師、地主の3職種が占める。
  2. 最多は企業オーナーで、調査で職業が判明した富裕層のうちの約57%。次に多いのが医師で約16%。3番目が地主で約12%。
  3. 公認会計士や弁護士、芸能関係者、政治家の富裕層もいるが、全体に占める比率は少ない。

 「全体の傾向はここ数年、大きくは変わっていないが、IT産業の隆盛を追い風に起業や資産運用などに成功した若い富裕層が増えている。その結果、企業オーナーで新勢力が出現した」と甲南大学の森教授は話す。森教授の言う新勢力が、PART1で見た新興の富裕層の一角を占めるのは間違いない。

 一口にお金持ちと言っても、職種が違えば消費行動も変わる。日本の富裕層の実態とそのカネの流れを明らかにするには、少なくとも企業オーナー、医師、地主の3大職種についての分析が必要だ。まずは企業オーナーからその実像を探っていこう。

 1  IT系ヤングリッチ増加も
仕事優先に変わりなし

 「カンパーイ」。18年某日、東京・渋谷の鳥貴族で常連客らしき8人の若者が酒を酌み交わしていた。服装や雰囲気、298円均一の同店名物「貴族焼」と生ビールを注文する様子などは、一見すると普通の大学生としか思えない。実は、彼らは渋谷を拠点とする新進気鋭の投資家や企業家。8人の総資産は500億円を超える。

資産12億円で家賃12万円

 その一人、古田義男氏(仮名、28歳)の資産額は8人の中では“控えめ”な約12億円。新卒でITベンチャーに入社し、2年後に独立。1社目の事業を売却し、2社目の事業を成長させている経営者だ。鳥貴族を会合の場として愛用するのは「コスパがいいから」と話す。

東京・渋谷にはIT系ベンチャー企業が集中。 近くの鳥貴族には経営者たちが集まることも
28歳でビリオネア
好きなお店は鳥貴族
古田氏(28歳)の履歴書
[職業]ベンチャー経営者
[略歴]大卒 ITベンチャー
24歳で独立
26歳で事業売却
新事業に挑戦中
[総資産]12億円
[愛車]なし
[住まい]月12万円の賃貸住宅
[最近の関心事]社員と一緒にウーバーイーツで注文する昼食のメニューを何にするか

 古田氏の日常の消費はその資産額と懸け離れている。住まいは月12万円の賃貸住宅で、クルマは所有しておらず、腕時計は約5万円のセイコー製。取材日の昼食は、社員と一緒に宅配サービス「ウーバーイーツ」で買った約800円のカレーライスだった。

 普通の暮らしをしているのは、ぜいたくな消費をする暇などないからだ。自分の会社を作った頃は1日18時間、ソフト開発に没頭していたし、今も1日の大半は仕事だ。時間がない上、「ビジネス以外でのおカネの使い道が全く思い付かない」(古田氏)ため、保有している現金資産のほとんどは会社に貸し付け、運転資金として回している。

 日本のお金持ちの中で最大勢力を占める企業オーナー。古田氏は、まさにその中でもここ数年、台頭してきた新勢力の代表だ。

 28歳にして10億円超の資産を築き上げた割には、拍子抜けするほど消費が細い古田氏。次に紹介する新勢力企業オーナー、原田明慶氏(仮名、35歳)もその姿勢は古田氏とほぼ変わらない。 もともとはフリーターだったという原田氏。ベンチャー企業家に拾われるようにエンジニアになりスマホアプリの開発に携わった。独立したのは約5年前で、現在の個人資産は5億円だ。

トッピングの煮卵をつけると800円を超えるため、 我慢するという資産5億円の原田氏(写真=RichLegg/Getty Images)
ラーメンは800円まで
煮卵トッピングは我慢
原田氏(35歳)の履歴書
[職業]ベンチャー経営者
[略歴]大卒 フリーター ITベンチャーのエンジニア 趣味でアプリ開発会社設立
[総資産]5億円
[愛車]なし
[住まい]月10万円の賃貸住宅
[最近の関心事]少し目立ち始めた腹回りの引っ込め方。近所のラーメン屋で煮卵トッピングを頼むべきかどうか

 「僕ら若い企業家の間では、事業が成功した途端、個人的なリッチ消費をするのはダサいという価値観がある。高級車でも買おうものならすぐSNS(交流サイト)でたたかれるし(笑)」。原田氏はこう話す。ぜいたくな消費をするくらいなら、今の事業を拡大して社会問題を解決してくれるビジネスに出資し承認欲求を満たしたいという。

 実際、原田氏はいまだに下積み時代のコスト意識が消えず、例えば「ラーメンは800円を超えると高い」と、店に行っても煮卵のトッピングが頼めない。富裕層になってから「健康には気を使いたい」と思うようになったが、結局「高いからといって良質とは限らないので、医療サービスも普通でいい」と考えるようになった。