<b>ダッシュボードの上に載っている黒い小箱が、キープトラッキンが格安で提供する運行記録装置(ELD)</b>
ダッシュボードの上に載っている黒い小箱が、キープトラッキンが格安で提供する運行記録装置(ELD)

 データがカネを生む。それを世に知らしめたのは米グーグルだ。検索キーワードから消費者の興味や関心事を可視化し、特定の消費者に出す「キーワード広告」を生み出した。2015年、広告だけで売上高673億9000万ドル(約7兆3000億円)を稼いでいる。

 グーグルはこの成功モデルを他の産業にも拡張し始めている。室温を測って空調を自動調節する「ネスト」、装着するだけで血糖値を計測できる「スマート・コンタクト・レンズ」。新しいデバイスによってこれまで誰も集めていなかったデータを収集し、それを使って白物家電やヘルスケアの市場を一変させようともくろんでいる。

 シリコンバレーでは、こうしたグーグルのやり方をまねるIoTスタートアップが次々と登場している。

 「グーグルと同じやり方で運送業を変える」。そう語るのはキープトラッキンのショアイブ・マカニCEO。同社は現在、トラックに運行記録装置(ELD)を取り付け、トラック会社が運行記録をリアルタイムに管理したり、トラックの運行リポートを規制当局に提出する作業を自動的にしたりするサービスを提供している。

ウーバーのトラック版を目指す

 同社のサービスの特徴は安さ。競合が800~1200ドルで販売するELDを無料でレンタルし、サービス料金も競合の3分の1程度に抑えている。これでもうけようとは考えていないからだ。

 狙いはトラック版「ウーバー」だ。「利用するドライバーが10万人を超えたら、空きドライバーと荷主をマッチングし、荷主が荷物の運送をオンデマンドで注文できるマーケットプレイスを始める」(マカニCEO)。

 マーケットプレイスを作るためには、トラックの運行パターンなどを予測するためのデータが不可欠。そのためにまず、記録装置を無料で配っているわけだ。グーグルが検索サービスを無料で提供するのと同じ構図だ。

 データでいかに稼ぐか。数々のスタートアップが知恵を競っている。

<b>カメラやマイク、無線LAN機能などを備えたパーコラタの小売店向けセンサー</b>
カメラやマイク、無線LAN機能などを備えたパーコラタの小売店向けセンサー
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 例えば小売店の来店客の詳細なデータを収集するセンサーを開発したパーコラタ。カメラやマイク、無線LANのアンテナを搭載したセンサーを店頭に設置し、来店客の風貌や話し方などから性別や年齢、同行者の有無などを判別。来店客のスマホの電波を収集して、滞在時間や来店頻度なども分析可能だ。データを機械学習し、数日後の来店客数や属性を予測するシステムも作った。

 ユニークなのはその用途。同社は来店客数の予想を基に、パートタイム従業員のシフト管理ができるクラウドサービスを小売店に提供している。

 来店客数の予測をマーケティングや自動発注に活用するのは容易ではない。小売店に共通する労務管理にターゲットを絞ることで、サービスを売りやすくした。同社のサービスは、ファーストリテイリングの米国法人などが既に導入済みだ。

空きプロペラ機で画像収集

<b>空き小型プロペラ機を農地撮影に活用するテラビオンのロバート・モリス創業者兼CEO</b>
空き小型プロペラ機を農地撮影に活用するテラビオンのロバート・モリス創業者兼CEO

 ユニークなデータ収集方法を考えだしたのがテラビオン。同社はカリフォルニア州などの農地の航空写真のデータを週に15テラバイトも集めている。写真を画像解析し、農作物の生成状況などを顧客の農家に提供している。

 テラビオンが使うのは、はやりのドローンではなく、昔ながらの小型プロペラ機。パイロット免許を取得する個人が多い米国では、稼働率の低い教習用小型プロペラ機が大量に存在する。空きプロペラ機を借り、安価に航空写真を集める仕組みを作り出した。

<b>スタートアップに人気のビッグデータ処理用オープンソースソフト「Spark」のユーザー会議</b>
スタートアップに人気のビッグデータ処理用オープンソースソフト「Spark」のユーザー会議

 パイロットは、同社が開発したタブレット用の航空ナビアプリの指示に従って飛行するだけ。同社が開発したカメラボックスがナビアプリと連携し、航空写真を自動的に撮影する。「小型プロペラ機を使った場合の航空写真の撮影コストは1エーカー(約4000平方メートル)当たり0.04ドル。ドローンを使った場合に比べてコストは100分の1だ」。同社のロバート・モリスCEOはコスト面の優位性を強調する。

 シリコンバレーでビッグデータの会合があれば、数千人のプログラマーが様々なスタートアップから集まる。ビッグデータの中心地では、あらゆる産業を変革しようという野望が渦巻いている。

様々な産業をデータで変革
●シリコンバレーの注目IoTスタートアップ
分野 企業名 概要
オフィス ビルディングロボティクス スマホでオフィス空調を制御。AI(人工知能)が利用者の好みを学習して温度を調整
小売り シンビロボティクス 自走式ロボットが店舗の棚を撮影、欠品や陳列の乱れのチェックを自動化
リテールネクスト カメラ搭載センサーで来店客の動線を分析してサービス水準を改善
自動車 オートマティック 自動車に加速度センサー付きデバイスを装着し事故時には保険会社などに自動連絡
メトロマイル 走った距離だけ保険料を支払う自動車保険。GPSセンサーなどで運転をチェック
農業 ドローンデプロイ 様々なメーカーのドローンに対応した自動操縦ソフトを販売。農地の自動撮影なども
ブルーリバーテクノロジーズ トラクターに画像センサーを搭載。AIが生育不良のレタス苗や雑草などを見つけ出す
日経ビジネス2016年5月23日号 36~37ページより

この記事はシリーズ「特集 データ資本主義」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。