「あり得ない組み合わせ」が続々
既に、日本の市場は健康を意識した食品があふれている。特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品といった制度もあり、食品メーカーのみならず花王や富士フイルムホールディングスのような異業種も巻き込み、開発競争が加速している。






脂肪や砂糖などの健康に悪影響を及ぼす懸念がある成分を可能な限り取り除くのは、もはや食品開発において当たり前だ。むしろ、最近は既存の食品には含まれていなかった栄養素を付加することで、簡単に、しかも完全な栄養状態を手に入れるための商品やサービスの開発が競争の軸になっている。
「乳酸菌の力で脂肪ゼロのおいしいアイスが実現できた」
そう語るのは、明治のフローズンデザート開発Gの土江愛和氏だ。同社は今年3月、ラクトアイス「デザートプラス more(モア)」を発売した。アイスの主成分であるバターや生クリームなどの使用を控えて脂肪分をゼロにしつつ、乳酸菌を使うことでアイス特有のねっとりとした食感を再現した。
これだけなら、従来の「健康に悪い成分を取り除く」という路線と変わりはない。だが、今回の製品にはひそかにもう一つの意義がある。同社は声を大にしては言わないが、乳酸菌を加えたことで、アイスが害にならないだけではなく、整腸作用の改善という健康増進に結び付けられる可能性が開けた。
明治は数千種類に及ぶ乳酸菌株を保有しており、用途に応じてどのように活用できるか研究を進めている。「LG21」などの機能性ヨーグルトをヒットさせた経験から、アイスなどでも栄養改善に寄与できると考えている。
過剰摂取は体に悪いというイメージが強い食用油でも変化が加速している。既に、コレステロールをゼロにしたり、脂肪の吸収を抑えたりした商品は数多くある。だが、これらは既存の食用油に含まれる体に悪い影響を与える成分をいかに減らすかという競争だった。ところが最近は、食用油の摂取で健康を促進するための研究も進む。
J-オイルミルズが昨年4月に発売した「AJINOMOTO 毎日栄養オイル」には、DHAやビタミンK2など不足しがちな栄養素が配合されている。DHAは脳の認知機能の向上に効果があり、ビタミンK2とビタミンDはカルシウムの吸収や骨への沈着を助ける。狙うのは認知症や骨粗しょう症のリスクが高まる高齢者だ。
DHAは酸化による風味の劣化が起こりやすく、ビタミンK2は紫外線など幅広い光の波長に弱く、いずれも食用油に添加するのは難しいと考えられていた。そこで原材料と容器を見直した。DHAは魚由来ではなく、風味の劣化が起きにくい藻類由来のものを、容器には遮光性のある瓶やラベルを採用した。
タンパク質の世界でも、日本ならではの取り組みが始まっている。米国や欧州のスタートアップは世界で増大するタンパク質需要をいかに賄うかという視点で植物性タンパク質の活用に動いているが、ハウス食品の発想はその逆だ。満足感を失わずに、いかに過剰摂取を抑えるかという視点である。
同社が開発した「低たんぱくミート」は、タンパク質の摂取を制限された腎臓病患者向けだ。食物繊維にコンニャクから抽出した成分をコーティングし、鶏のひき肉のような食感を再現。本物のひき肉に混ぜて使う。
ハウス食品のフードソリューション本部の的場美紀子氏は「平均寿命が延びれば病気にかかるリスクも高まる。病気ごとに適した食材の需要は伸びる」と推測する。開発された技術が、腎臓病患者だけではなく、栄養の過剰摂取による様々な健康被害を抑える次世代食品につながるかもしれない。世界の爆食需要に応えながらも、肉の消費量を減らす助けにもなりそうだ。
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