今後どんな時代になろうとも「消費者の面倒」はヒット開発の大きなヒントになる。だが面倒解消ビジネスが市場を拡大していくと、経済に悪影響を与えかねない。社会の格差が広がり、健全とは言えない世界が生まれる可能性もある。

<span class="fontBold">通勤に自転車シェアリングを利用する人が急増している</span>
通勤に自転車シェアリングを利用する人が急増している

 赤い電動自転車に乗ったスーツ姿のビジネスパーソンが続々とオフィス街の専用スペースに駐輪していく。朝の通勤時間帯、東京の都心部ですっかりおなじみになった光景ではないだろうか。彼らが利用するのは、NTTドコモの子会社「ドコモ・バイクシェア」の自転車シェアリングサービスだ。

時間は半減、費用は6分の1

 1カ月に2000円払えば、1回当たり30分以内なら使い放題(港区の場合)で、通勤に使う人が急増している。東京・品川駅から徒歩10分のマンションに住む50代の会社経営者も、その一人。1年ほど前から六本木にあるオフィスまでの通勤に利用している。自宅近くのドコモ専用駐輪場から、オフィス近くの同じく専用駐輪場まで自転車だと20分。駅まで歩き、電車を乗り継いで通っていた頃と比べると通勤時間は半減。1カ月の定期券は1万2000円程度なので通勤費も6分の1になった。

 自分で自転車を所有し通勤することもやろうと思えばできる。が、オフィス街で駐輪場所を探すのは大変だし、帰りに飲みに行ったり雨が降ったりすればオフィス近くに止めっぱなしにせざるを得ない。盗難の恐れもあるし、老朽化も早くなる。

 「バイクシェアならそうした面倒が一切ないし、電動自転車だから坂道でも楽で、コストも安い。本当に便利」と前述の会社経営者。同意見の会社員は多く、2011年に実証実験を開始して以来、登録会員数は34万人を突破した。「駐輪するポートの数を増やしており、利用回数は毎年倍々ゲームで伸び、17年度は470万回に到達した」とドコモ・バイクシェアの堀清敬社長は話す。

 いいことずくめに思える自転車シェア。ただ、ドコモ・バイクシェアは順調に成長しているものの、お隣の中国では気になる動きもある。シェアリングの急速な普及が、自転車産業に深刻な影響を及ぼしていることだ。中国では、2000万台に達するとされるシェア用自転車が普及した結果、個人が自転車を新規で購入する意欲が低下し、メーカーは業績不振にあえいでいる。

 その結果、「自転車のインテル」と呼ばれ、変速機に強いシマノも中国市場で苦戦している。低価格完成車の市場が低迷し、販売が落ち込んでいるからだ。「世界最大の自転車市場」の変化は、シマノ全体の業績にも影を落とし、17年12月期決算で2期連続の最終減益となる一因となった。日本市場でも同じことが起きないとは限らない。

 シェアサービスが普及すれば、その製品を作っているメーカーは打撃を被る──。考えてみれば当たり前のこの懸念は、自転車のみならず巨大な自動車産業でも表面化しつつある。

 シェアリング先進国の米国。カーシェアに加え、一般の人が運転手になって、移動したい人を送迎する「ライドシェア」も広く普及している。1台の自家用車を1人で利用していた時代から、複数で活用する時代になれば、当然、自動車市場は縮小する可能性がある。

 25年間で米国の自動車販売は4割減る──。そんな衝撃的な予測を公表したのは英バークレイズ。それによると、米ゼネラル・モーターズ、フォード・モーターの販売台数は半分以下に減少。日本勢も大打撃を受けるリスクがある。

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