市場の成熟が進む中、ヒット商品開発のための多くの手法が色あせてきた。だが「面倒がる消費者」が今後主流になるなら、ヒット商品開発は難行苦行ではなくなる。本誌が提唱する新ヒットの方程式は単純明快。何でもいい、隠れた面倒を探し出せ──だ。

 きっかけは2016年夏、東京・渋谷で1人の青年が外国人旅行客に偶然声を掛けられたことだった。「荷物を預けられる場所を知らないか」

 猛暑の中、大きなスーツケースを抱え途方に暮れていた旅行客に同情した青年は一緒にコインロッカーを探した。が、駅周辺のロッカーはどれも満杯。結局、大型サイズの空きロッカーを探し出すのに40分を要した。

思い込みに隠れていた「面倒」

 お礼を言う観光客に笑顔で答えながら、青年は不思議に思っていた。どうしてターミナル駅なのにこんなに空きロッカーが見つからないのか──。

 当時、都内でベンチャー企業を始めたばかりの青年は、渋谷駅で荷物を預ける機会などなかったが、通勤途中で見てきた記憶では、渋谷でも新宿でもターミナル駅にはコインロッカースペースがあちこちにあるはずだった。

 だが、気になって調べてみると、そうした残像は全くの思い込みで、例えば渋谷の場合、1日の乗車人員が平均37万1336人(16年度)に対してコインロッカーは1400個しかなく、スーツケース対応の大型サイズに限れば90個しかなかった。

 インバウンド客が増え、流通や娯楽の一極集中を背景に地方からも高速バスなどで都内に遊びに来る人は年々増えている。たどり着いた結論は1つ。「今後、荷物を預ける場所探しを面倒に思う人が急増する」、だ。

 青年の名は工藤慎一。現在は、荷物一時預かりサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」を手掛けるベンチャー企業、ecbo(東京・渋谷)の創業者であり、社長だ。

<span class="fontBold">エクボクロークのサービスでは、店員が預かる荷物を撮影するだけで、利用者にメールで預かり証が届く</span>(写真=北山 宏一)
エクボクロークのサービスでは、店員が預かる荷物を撮影するだけで、利用者にメールで預かり証が届く(写真=北山 宏一)

 工藤社長が17年1月に立ち上げたエクボクロークの仕組みはシンプルだ。専用サイトを開くと、エリアごとに荷物を預かってくれる店舗が表示される。業種は飲食店や美容店、新聞配達店などばらばら。もともと荷物預かりなどしていなかったが、工藤社長に飛び込みで口説かれ、エクボクロークの“拠点”となった。

 現在首都圏を中心に1000カ所あるというそうした契約店舗の中から預けたい場所を決め、ネットで予約した後、荷物を持って訪れるだけ。料金は事前登録したクレジットカードから引き落とされる。1日預ける場合、スーツケースサイズで600円だ。

 現在、日本にあるロッカースペースは約22万個だが、20年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には50万個分の需要が生まれるとされる。この30万個の不足分が同社にとってまず当面のビジネスチャンスだ。2月には、駅周辺でのコインロッカー不足を抱えるJR東日本から出資を受けた。

 さらに「観光客の荷物の置き場不足は世界の大都市の共通問題」と工藤社長。25年には海外500都市での展開も目指す。多くの人が悩んでいたのに気に留めなかった「隠れた面倒」。その偶然の発見が、思わぬグローバルビジネスに発展する可能性が出てきている。

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