服やペットまでシェア、冠婚葬祭まで時短、寂しくないお一人様向け居酒屋……。ここ数年、注目を集めてきた新しい消費の流れが一段と“過激化”している。そこに共通するのは「消費はしたいが面倒くさいのは嫌」という極端なまでの姿勢だ。

<span class="fontBold">私服をほぼ全てレンタルで済ますことにした長尾二郎氏</span>(写真=菅野 勝男)
私服をほぼ全てレンタルで済ますことにした長尾二郎氏(写真=菅野 勝男)

注目の新消費者 1:シェアラー

 外国人観光客であふれ返る道頓堀の戎橋。黒や茶系の洋服に身を包んだ中国人の団体観光客でごった返す大阪の中心地に、いい意味で周囲から浮いている男性が1人たたずんでいた。トレンドを忠実に踏襲した服装で決めているのは、大阪市在住で建材メーカーの代理店に勤める長尾二郎氏(40)だ。

おしゃれだけど私服はゼロ

 2018年春夏のトレンドカラー、ピンクのシャツに同じく流行柄のボーダーを合わせ、ボトムは春の新定番色カーキ。どう見てもファッションが趣味としか思えない長尾氏だが、実際は洋服へのこだわりはなく、それどころか私服を持っていない。仕事以外で外出の際に着用している洋服はほぼ100%、男性向け洋服シェアリングサービス「leeap」から借りているからだ。

 leeapは、大阪市に本社を置く07年設立のウェブ会社、キーザンキーザン(井上大輔社長)が16年から提供しているサービス。会員になると毎月、数パターンの着回し可能な洋服一式が段ボール箱で届き、1カ月後に返却すると、再び新しい洋服が送られてくる。いずれもキーザンキーザンが、最新トレンドと会員の年齢、用途に応じて厳選した“間違いのないアイテムと組み合わせ”だ。

 長尾氏がファッションシェアを活用するのは、必ずしもコストが安いからではない。契約している「ジャケパンプラン」は洋服2パターンで月額1万3800円(税別、以下説明がない場合は同)。数万円相当の上着やパンツが毎月2セットずつ借りられるとはいえ、料金が年16万円を超えると考えると、「買った方が安い」と思う人もいるはずだ。

 ではなぜleeapを使うのか。「面倒なことがなくなるから」(長尾氏)だ。

長尾二郎氏の考え方
服を買うと……
約5万円の購入代金が発生
保管コスト(場所の確保、クリーニング代)が発生
流行確認コスト(ファッション誌購入など)が発生
流行を見誤るリスクが発生
服をシェアすると……
年16万円のシェア代で全ての悩みが解消!
*取材当日のシャツやパンツなどを購入した場合の代金

 まず、自前の服を持てば、保管するのが面倒だ。保管場所も必要な上、アイテム次第では定期的にクリーニングに出す手間も発生する。長尾氏の場合、16年4月からleeapを利用し始めて以降、私服をほぼ全部処分したが「ほとんど着ていない服が45リットルゴミ袋で6袋ぐらい家にあった」と振り返る。

 そして保管以上に面倒なのが服選び。平日はスーツや作業着だから服装に悩むことはないが、問題は休日だ。男性用ファッション誌やブティックの店員の意見を参考に研究を重ねてコーディネートしても、家族から「その組み合わせはどうなん」とダメ出しされることも。買ってきたジャケットを値札が付いたまま捨てたこともあった。

 「トレンドに合わない恰好はしたくない。たったそれだけのことなのに……」。そんな“長年の苦悩”から解放してくれたのがファッションシェアだ。おしゃれな恰好をするための面倒と手間、そのための努力が徒労に終わるリスクを考えると、月額1万3800円は高くない──。これが長尾氏の結論だ。

 今、leeapのような「アパレル系シェアサービス」の市場が急拡大。新規参入が相次ぎ、シェアリングエコノミー協会に参加するアパレル系のサービス運営企業は10社を超えた。

 活用しているのは長尾氏のような男性だけではない。その利用者はファッションに敏感な女性にまで広がっている。神戸市に住む松本春美さん(42)もその一人。松本さんが活用しているのは、06年設立のラクサス・テクノロジーズ(東京・港、児玉昇司社長)が手掛けるブランドバッグのシェアリングサービス「ラクサス」だ。

<span class="fontBold">モノが増えすぎてしまうためバッグシェアを使う松本春美氏</span>(写真=水野 浩志)
モノが増えすぎてしまうためバッグシェアを使う松本春美氏(写真=水野 浩志)

 月額6800円で、プラダやエルメス、ルイ・ヴィトン、シャネルなど55のブランドのバッグを無期限でレンタルできる(一度に借りられるのは1個まで)。バッグの小売価格は平均30万円で、18年3月現在で2万3000種類をそろえる。新しいバッグへの交換は1カ月に1回までなら無料。それ以上は1000円の荷造り手数料が発生するが、それさえ気にしなければ、注目の新作バッグを取っ替え引っ替え使い続けることが可能だ。

 ほぼ季節ごとに新作バッグを買っていた松本さん。金銭的負担は気にしていなかったが、問題は収納場所。クローゼットが満杯で、整理しようとしたらバッグだけで床が見えなくなったという。そんな松本さんにとってラクサスはいわば“管理不要の外付けクローゼット”。「本当に助かる」と話す。

10カ月で27個のバッグを借りる

 同じくラクサスのヘビーユーザー、モンゴル出身でアパレル系企業に勤務する関根ソロンゴさん(41)も、利用する動機はコストではない。17年6月に入会して以来、10カ月で27個のバッグを借りた関根さんがバッグシェアを活用する最大の理由は「洋服選びの面倒から解放されること」だ。

<span class="fontBold">おしゃれのためバッグを交換し続ける関根ソロンゴ氏</span>(写真=陶山 勉)
おしゃれのためバッグを交換し続ける関根ソロンゴ氏(写真=陶山 勉)

 といっても、関根さんの面倒は、冒頭の長尾氏のそれとは違う。「それまでは、服を買いに行って気に入ったものを見つけても、買う直前でその服に合うバッグがないことに気づき、諦めることが何度もあった。今は、何のストレスもなくどんどん服を買って、バッグは後でラクサスから選べばいい。この面倒のなさはお金には代えられない」。関根さんはこう話す。

 ここ数年、「新しい消費の形」として様々な分野で存在感を増しているシェアリングサービス。代表格であるカーシェアリングは、17年3月時点の国内サービス会員数が108万5922人と3年前の2倍以上に増加した(交通エコロジー・モビリティ財団調べ)。多くの調査機関は、こうしたシェア市場の拡大はさらに加速すると予測。例えば、米PwCコンサルティングでは、25年の世界のシェアリング市場規模は6700億ドル(約73兆円、レンタルサービスを含む)に達し、16年の世界半導体市場(3389億3100万ドル、世界半導体市場統計)のおよそ2倍になるとみている。

 そんな市場拡大の原動力が、「それまで他人との共有には向かないと思われていた分野」にまでシェア愛好家、シェアラー(Sharer=分け合う人を意味する)が増えていることだ。アパレルはその典型的分野で、「肌に身に着けるため、多くの人が自分で所有しようとするはず」との指摘もあった。しかし今、ヘビーユーザーはそんなことは気にしていない。

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