競合企業と喧嘩をしてでも顧客を奪う姿勢を持つ経営者は、日本にも残っている。顧客への密着から環境の武器化まで、その戦い方は喧嘩の5法則と極めて整合的だ。7人の侍社長に、企業間競争における正しい喧嘩のやり方を学ぶ。

 不動産紹介業の激戦区、東京・恵比寿。国内最大級の店舗網を持つエイブル(東京都港区)など大手を含め50近い不動産店がひしめく駅前に、“行列ができる零細不動産店”がある。従業員が2人であるにもかかわらず常時40人の新規顧客を抱えるその店の名は、誠不動産(東京都渋谷区)。元自衛隊員にして元クラブの黒服という経歴を持つ鈴木誠社長が2009年に設立した。

 小さな会社が、大手不動産業者と互角に渡り合ってきたのは、顧客との距離感が“怖いくらいに近い”からだ。

 まず、契約してくれる顧客には、大手では期待できないサービスを提供する。公共料金の手続き代行を無料で引き受けるのは序の口。インターネットの回線や引っ越し業者の手配まで引き受け、契約に必要な公的書類の代理取得も請け負う。先日も、契約書に不備があった契約者のために、東京~京都間を5時間掛けて往復したばかりだ。

入居後の近所トラブルも解決

 ただ単に親切なだけではない。契約者には鈴木社長の携帯電話番号が書かれたキーホルダーが渡される。契約者は不動産関連で困ったことがあれば、どんな危険なことでも携帯を鳴らし解決を頼んで構わない。「24時間OK。寝ていない限り必ず出る」(鈴木社長)

(写真=的野 弘路)

 深夜、隣の部屋の騒音がひどければ、代わりに呼び鈴を押して乗り込む。年々増えるマンションの騒音トラブルだが、管理会社に報告してもせいぜいエレベーターに張り紙が張られる程度。鈴木社長であれば、自衛隊時代に培った胆力とクラブ時代に身につけた“硬軟織り交ぜた交渉力”で相手が誰であれ話し合い、即日解決を目指す。

 地域のつながりが希薄な都会では、隣に住んでいる人も知らず、ささいなことがとんでもない隣人トラブルに発展する。実際、最近はこんな“事件”が発生した。

 都内に物件を借りていた男性契約者が早朝に目覚まし時計をセットしたまま家を空けた。誰もいない部屋では連日朝から大音量でアラームが鳴り響き、止まらない。

 事情を知らず帰宅した契約者を待ち受けていたのが、隣人による嫌がらせ。深夜にドアがノックされ、ベランダに侵入され窓もたたかれるようになった。相談を受けた鈴木社長は隣人宅へ出向き、原因が目覚まし時計の消し忘れにあったことを解明。話し合いの末、トラブルを解決した。大箱のクラブを仕切っていただけあって、いざこざの仲裁は手慣れたものだ。

 「知名度も情報力もない小さな会社が大手と戦うには、敵がやりたくてもやれないことをやって顧客に近づくしかないと考えた」と鈴木社長は話す。

 あの会社で家を借りれば、気合の入った社長が入居後の近所トラブルまで解決してくれる──。そんな噂を聞き、大手の普通の顧客対応に満足できない利用者が次々に訪れるようになった誠不動産。今の陣営では対応しきれないため、現在は、不動産業界では極めて珍しい、紹介者がいないと部屋探しを引き受けない「完全紹介制」を導入しているほどだ。

 企業間競争に勝つには「顧客との距離」を詰めるというのが喧嘩の法則①だったが(PART2)、密着の仕方は2つある。

 最も単純なのは「濃厚接触する頻度」を高め、自ら顧客に近づくこと。だがこれは国際競争入札のように特定の相手にモノを売り込む場合はいいが、不動産業のように、不特定多数を相手にする商売には応用できない。その場合は、敵がやらない独自のサービスを提供し顧客の方から近づかせる手もある。