新興国のインフラなど重要な国際競争入札で、日本勢が敗退する事例が増えている。背景にあるのは、競合相手を蹴落としてでも商売をものにする戦術の欠如だ。品質の差が縮まる中、“喧嘩下手”になった日本企業は、今後ますます苦戦しかねない。

安倍晋三首相はエルドアン大統領との会談のたびに、つり橋をはじめとした大型インフラ輸出を話題にしたが受注できなかった(写真=Abaca/アフロ)

 「まさか世界屈指の親日国で、あれほどの重要な案件を失注するとは……」。経済産業省の幹部はいまだ3カ月前のショックから立ち直れていない。重要な案件とは、2017年2月に決着が付いたトルコの巨大つり橋プロジェクトの国際競争入札だ。

 アジアと欧州文化の十字路、イスタンブールから約300km。トロイの木馬で有名なトロイア戦争の舞台としても知られるダーダネルス海峡に、世界最長2000m級のつり橋が23年までに出現する。建国100周年を記念する一大プロジェクトには約100kmの高速道路建設も含まれ、総工費は100億リラ(約3140億円)。だが、建設するのは日本企業ではない。新興国におけるインフラ受注の“宿敵”、韓国の財閥系企業、SK建設と大林(テリム)産業だ。

 関係者が悔しがるのは、受注にそれだけ自信があったからにほかならない。トルコ政府が国際競争入札によるつり橋建設を打ち出したのは14年秋。以来、成長戦略の柱として掲げられている「質の高いインフラ輸出」の好事例と安倍政権からも位置付けられ、17年1月の応札までIHIを中心に入念な準備が進められてきた。

 加えて、経産省幹部の言う通り、トルコは世界有数の親日国だ。

 1890(明治23)年に和歌山県沖で遭難したトルコの軍艦「エルトゥールル号」の乗員を地元住民が救助して以降、積み重ねた「日土親善」の歴史は127年。IHIはトルコで、総工費約1400億円(当時)の第2ボスポラス橋(1985年)の受注など様々なインフラ建設の実績も持つ。

 これだけの条件が整っていながら、韓国勢に不覚を取ったのはなぜなのか。様々な分析がなされているが、日本国内で最も有力な説は「韓国勢がむちゃをした」だ。

 同プロジェクトは、受注企業は橋・高速道路の通行料収入で建設費を回収し、その後、設備をトルコ側に譲り渡す「建設・運営・譲渡(BOT)方式」。受注企業が設備を早く譲渡すれば、トルコ政府の負担はそれだけ減る。

 最終的に日本勢が提示した譲渡時期は17年10カ月後だったが、韓国勢は16年2カ月後に引き渡すとした。「韓国勢が短い期間を打ち出してくるのは分かっていたが、差は半年程度と思っていた。20カ月は想定外」と前出の経産省幹部は振り返る。要は、実績も技術でも勝っていたが、相手が受注ありきの強引な商売を仕掛けてきたから仕方ない、というわけだ。

 ところが本誌の取材によると、トルコ政府関係者から全く別の理由が挙がっている。「コストや品質うんぬんの前に、日本勢には、競合相手と喧嘩をしてでも商売をものにしてやろうという姿勢がなかった」。政府中枢と強力なパイプを持つトルコ海外経済評議会(日本の経団連に相当)アジアパシフィック会長のネジデット・デミュルレック氏はこう話す。

世界最長のつり橋受注のため準備を進めてきたが……
●ダーダネルス海峡のつり橋建設を巡る動き
つり橋が建設されるダーダネルス海峡は、エーゲ海と、黒海につながるマルマラ海の間にある(写真=AltugAcer/Anadolu Agency/GettyImages)