高齢者に忖度はしない。世代間の不公平感は、対立ではなく建設的な議論や行動で乗り越える──。こんな思いを抱き、主婦から経営者まで、“現役世代”が行動を起こし始めている。

 PART1で紹介した、保育園建設に反対する高齢者らの身勝手な振る舞い。こうした問題に直面しながら、それを地域の個別の問題に押し込めるのではなく、幅広く社会に訴えようと奮闘している母親がいる。東京都武蔵野市に住む天野妙さん(42)だ。

 働きながら3人の子供を育てる天野さんは2016年春、仲間と署名を集め吉祥寺駅近くに保育園を建設するよう市に要望した。市議会で陳情は採択されたが、「違法駐車を事業者が取り締まれるのか」などと近隣住民の反対に遭い事業者が撤退。計画は頓挫した。

 しかし、天野さんらは諦めなかった。待機児童の問題を日本中に広がる社会的課題と捉え、国や自治体への働きかけを始めたのだ。SNS(交流サイト)での情報発信のほか、新たに活用したのがネット署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」である。

 Change.orgは個人・団体が「キャンペーン」と呼ぶ問題提起や訴えをサイト上に公開、賛同する人々の署名を集めて対象となる行政や企業に提出することで対策を促す仕組み。世界196カ国で1億人以上の利用実績があり、日本では12年にサービスを開始した。

 天野さんらは今年1月から、政府の子育て予算に1兆4000億円を追加し、待機児童の解消を訴える内容のキャンペーンを始めた。1万7000人以上の署名が集まり、4月中旬に自民党に提出した。天野さんは「ネットとリアルの両方で賛同の輪を広げていきたい」と強調。イベントや国会議員らへの働きかけも積極化している。

 Change.orgではこれ以外にも、長時間労働の解消など国レベルでの社会問題のほか、地域的な課題など幅広いキャンペーンが展開されている。

 昨夏には米国企業による奄美大島での大型クルーズ船向け寄港地建設計画に対し、地元有志らが環境保護を理由に反対キャンペーンを実施。4万6000人超の署名を集め首長の受け入れ撤回を実現した。主宰した田中基次さん(42)は「地域社会で埋もれがちだった声をネットで発信したことで、全国から力をもらった」と振り返る。

 人々の問題意識や訴えを広く「可視化」し、現実の行動につなげていくこうした取り組みは、ネットが普及した現代の新しい政治参加の可能性を示す。Change.orgの武村若葉氏(33)は、「我々をプラットフォームとして活用してもらい、より多くの人々が課題解決のために動けるような環境づくりにつながってほしい」と語る。

 国民の政治参加において最も分かりやすい「選挙」と「投票」。この分野でも新しい風が吹き始めている。

 「極論ですが、0歳からでも選挙権と被選挙権を持たせてもいい」。こんな主張をぶち上げるのが、13年に発足したNPO法人「YouthCreate(ユースクリエイト)」の原田謙介代表(30)。若者の政治参加を推進する取り組みで注目されるリーダーの一人だ。

YouthCreateの原田謙介代表は、高校などを数多く巡り政治参加の意義を伝える

 15年の公職選挙法改正で、国政選挙では昨年7月の参院選から選挙権が18歳以上に引き下げられた。学校で主権者教育を取り入れる動きが広がり、原田氏らが講演などで呼ばれるケースも増加。見えてきたのは、政治家と若者らの距離の遠さ、それを橋渡しすべき人材・団体の層の薄さだった。

 原田氏は現在「教育から参画へ」を掲げ、学生だけでなく子育て世代などより幅広い人たちへと選挙や投票の意味、政治参加の意義を伝えようとしている。その先に期待するのは、若者だけでなく高齢者の意識変革だ。「従来の物差しで有権者と政治を捉えるのではなく、下の世代のために何ができるかを考えてほしい」と訴える。

 被選挙権を選挙権と同じ年齢まで引き下げようとする団体もある。起業家の牧浦土雅氏(23)らが15年に立ち上げた「OPEN POLITICS」だ。グロービス経営大学院が関わる若手リーダー育成プログラム「G1カレッジ」で代表を務めた経験も持つ牧浦氏は、「同世代が国民の代表となることで、若者が未来を託せるようになる」と語る。

 OPEN POLITICSでは署名活動やイベントに加え、「本丸」ともいえる国会や各政党に積極的にロビー活動を展開。牧浦氏らの取り組みが契機となり、自民党などが昨年の参院選で被選挙権の年齢引き下げ検討を公約に盛り込むなど、潮目も変わり始めた。

 賛同を表明する自民党の平将明衆院議員は「政党や国会には多様性が必要であり、我々にとっても大いに刺激になる」と歓迎する。「まだ越えるべき壁は高いが、若者の代表者が1人でも国会に入れば景色が変わる」と牧浦氏。法改正の実現に向け、連携の輪を広げていく考えだ。