地域社会で高齢者が数々のトラブルを引き起こし、社会保障費は増大の一途をたどる。「団塊の世代」がすべて後期高齢者になる2025年、悪夢のシナリオも現実味を帯びる。

(写真=的野 弘路)

 保育園建設のため東京都世田谷区で開かれた近隣住民向けの説明会は、異様な雰囲気に包まれていた。「園児が近くに増えれば、自動車を運転する高齢者がはねる恐れがある。そうなった場合、区は補償してくれるのか!」。こんな“トンデモ”な理屈をまくしたてたのは、80代の弁護士だった。

 全国の待機児童は明確になっているだけで、2016年4月時点で2万3553人。安倍政権はこれを17年度末までにゼロにする方針で、支援の拡充や各自治体との連携に乗り出している。だが近年、近隣住民からの反対運動で停滞・頓挫するケースが相次いでいる。

 「経営しているアパートの近くに子供が増え、嫌がる店子が退去してしまったら、家賃を補償してくれるのか」「幼稚園ができたら送り迎えの親の違法駐車が増えるじゃないか。事業者はそれを取り締まれるのか」……。

 こうした声に筋が通らないと感じる人も多いだろうが、本人たちは真剣そのもの。保育園・幼稚園の危機対応をサポートするアイギス(東京都中央区)の脇貴志代表取締役(44)は、「多くの反対運動で中心となるのは高齢者。自治体も『自分たちを無視するな』という彼らの声に腹をくくって対応できない」と行政による忖度の弊害を指摘する。

 数年前に西日本のある地方都市で小児科病院を開業した医師の山田太一さん(仮名、45)は、地域の医師会から受けた嫌がらせを忘れられない。

 この地域では小児科が不足していたことから、出身者の山田さんに「地元に戻って小児科病院を開いてほしい」と自治体から依頼があった。開業を決意し、医師会に挨拶に行った山田さんに60代の会長は明らかに不機嫌だった。その会長は父親の代から続く地元の小児科病院の院長で、直接の競合の誕生を疎ましく感じたのだろう。小児科医療に対する熱い思いを語る山田さんに「致し方ありませんな……」と応じた。

 不安は的中する。診療所を開設するには所管する保健所に申請しなければならないが、なかなか許可が下りない。調べると、医師会から保健所に圧力がかかっていた。開業後も地元の大学病院に「患者を紹介するな」というお達しが出回っていた。

 医師会に歯向かえない仕組みはこれだけではない。例えば、公費負担の予防接種を提供するには地域の医師会を通じて申請しなければならない。その診療報酬は、小さい診療所の経営を支える重要な収入だ。一介の医師が既得権益者の集まりである医師会には逆らえない。

 ちなみに、この地域の医師会は400万円の入会金が必要で、年10万円以上の会費が徴収される。「老人たちの飲み代を支払わされていると思うとむしずが走る」と山田さんは吐き捨てる。

 「老害」ともいえる高齢者が引き起こすトラブルや、既得権を振りかざす振る舞いが日本全国で目立っている。近年「キレる老人」と呼ばれ、高齢者による犯罪が頻繁に新聞やテレビをにぎわせるのもその一つだ。

 内閣府の調査によると、06年以降、65歳以上による犯罪件数は4万6000~4万8000件程度で推移し、01年の2倍以上になった。スーパーなどでの万引きに代表される「窃盗犯」が多くを占めるが、街中や公共施設で暴行や傷害に及ぶ「粗暴犯」も年々増加。高齢化を上回るスピードで増殖する。

「老害」は社会の隅々にあふれている
●高齢者が引き起こす主なトラブルの実例
注:日経ビジネスの取材や藤原智美氏の著書『暴走老人!』を基に構成