既得権益を守った東電改革は、国民やメーカー、電力会社に犠牲を強いる。市場を無視した救済はモラルハザードを引き起こし、日本経済の活力を奪う。

(写真=左:村田 和聡、右:アフロ)
(イラスト=小迎 裕美子)

 東芝の凋落が止まらない。4月11日、監査法人が決算内容に「適正意見」を付けないという異例の形で2016年4~12月期の決算を発表した。巨額の最終赤字により債務超過に陥っているだけでなく、まともな決算発表すらできないほど経営は混迷を極めている。

 東芝の凋落は、東電の福島原発事故が一つの引き金になった。事故によって世界的に安全基準が厳しくなり、建設コストの上昇が経営を圧迫している。原発メーカーの中でも東芝が強く影響を受けているのは、最も楽観的で、自社の技術を過信していたからだ。

 過信は後に大きな災いを招いた。06年に約6200億円で米ウエスチングハウス(WH)を買収。東芝とWHの両社が、世界中で原発を建設する壮大な計画を立てていた。しかし蓋を開けてみれば、計画はことごとく外れ、米電力会社との契約が重荷となり、東芝は崖っぷちに追い込まれている。

 WHが電力会社との間に不利な契約を結ぶことを許した背景には、工期に対する過信があった。09年末、WH本社で本誌の取材を受けた志賀重範上級副社長(その後東芝会長に就任)はこう語っていた。「日本で多くの原発を建設してきた。海外でも工期短縮のノウハウを生かせる」。結局、工期が大幅に延びて費用の拡大に歯止めがかからないため、WHの法的整理を決断。17年3月期に1兆円超の最終赤字に陥る見通しだ。

 ある東電関係者は「東芝の凋落と東電は無関係ではない。我々との取引関係が東芝を増長させてしまった」と省みる。東芝は、電力最大手の東電から数多くの原発関連施設を受注してきた。1971年に納入した福島第1原発1号機をはじめ、柏崎刈羽原発など多くの原発を建てた(下図参照)。

東電が利益の源泉であり続けた
●東芝が納入した東京電力の主な設備・機器
注:原発は一部設備のみの納入も含む。
火力発電は主に蒸気タービン

 これらは双方にとって“おいしい”案件だった。東電は基本的にメーカーに計画を丸投げしてきた。コストが増えても、総括原価方式で電気代を上げればいい。東芝も潤沢なコストをかけられるので、工期でも無理が利く。「コストが上振れても、長年の取引関係から『あうんの呼吸』で負担し合うのが通例だった」(原発メーカー関係者)

 こうした甘い環境で育った原発事業は、世界で墓穴を掘ることになった。「東電ビジネス」という甘すぎる土壌は、東芝のような取引企業を弛緩させた。

 経営危機に陥った東芝は、今後も東電を頼ろうとするだろう。だが、今の東電はかつての「甘い殿様」ではない。調達コストを厳しく追求するようになった。加えて東電は海外事業の拡大を志向しているため、国内の受注自体を減らす可能性も高い。

 そもそも国内では原発の新設に対するハードルが極めて高い。東電が3月に発表した再建計画「新々総合特別事業計画骨子案」では、原発の新設について明言せず、政府は再稼働の道筋すら描けていない。東芝以外のメーカーにとっても冬の時代が続くことになる。

 こうした厳しい状況で各社が期待を寄せるのが、東電の廃炉事業だ。しかし、「東電が100年単位の廃炉作業を全うできる保証はない」と東電委員会の委員は指摘する。廃炉ビジネスの将来性は不透明である。