今回の改革の最大の勝者を挙げるとすれば経産省だろう。東電改革を業界再編までつなげようと動くが、改革の現実味には疑問符も付く。

東電の経営再建や福島原発事故の対応策を協議する経産省の東電委員会。次期会長の川村隆氏も委員として参加する(写真=時事)
(イラスト=小迎 裕美子)

 「東電問題の方向性は示せた」

 3月末、経産省の幹部はこう満足げに話した。福島原発事故の処理費用は倍増したものの、「必要な規模をしっかり示し、それに応じた措置を取る決断をした」と幹部は自賛する。

 別の幹部は「数土さんなりの置き土産が効いた」と話す。昨年半ば、数土会長が「廃炉費用が青天井では経営できない」と国に対応を求めた一件だ。

 2011年の事故後、国は賠償費用で東電が破綻することがないよう、交付金を出して支援した。それを東電と他の大手電力が返済していく仕組みだ。14年には国が負担する除染費用を国有株の売却益で賄う方針を当時の再建計画に盛り込んだ。これにより東電を「たたく」のではなく成長させるシナリオが動き出した。

 賠償と除染に続き、最後に残った懸案が廃炉だった。今年中の退任を決めていた数土会長が国に助けを求めたのを機に、経産省は東電改革に一気に乗り出す。経済事業と福島事業の分離を明確化するシナリオを描き、加えて人事の一新や業界再編まで促した。

 国はおろか、世界が注目する東電問題。これをうまくさばければ、官僚としての実績は一気に高まる。経産省でエネルギー政策を管轄する資源エネルギー庁は、今や経産省の出世コースとなった。「東電問題を取り仕切ったエネ庁の幹部は省内でも出世頭として注目されるようになっている」。省内人事をよく知る関係者は皮肉交じりに言う。

 「本来ならば、12年に国が株式の過半を握る前に、東電は破綻処理すべきだった」(自民党の河野太郎・衆院議員)と批判する声はある。だが、株式を取得してしまった以上、東電が潰れれば投入した税金が無駄になるのも事実。経産省としては国が福島原発事故の全責任を負い、批判の矢面に立つことも避けたい。そこで東電を前面に立たせ、“サンドバッグ”として利用した。その枠組みを前進させるのに成功した今回の東電改革。主導した経産省は最大の勝者といえるだろう。

 再編などで事業基盤を拡大し、年5000億円の利益を長期的に確保。企業価値(株価)を大きく伸ばした上で、国が保有する株式を売却し、事故処理費用に充てる。東電委員会の提言と、これを受けて東電がまとめた経営再建計画の骨子の要点だ。

東電改革、10のポイント
●東電再建策と福島原発事故の対応
1 稼ぐ(経済事業)ことが福島事業への貢献。経済事業の早期自立
2 送配電事業を合理化(年間1500億円)、累積1兆円のコスト削減
3 年間5000億円の利益を確保
4 原発再稼働を実現(柏崎刈羽原発2基稼働で1000億円の収益改善)
5 送配電、原子力で他社と共同事業体を設立
6 廃炉は東電が責任を持って対処、国が管理型積立金制度を設立
7 次世代への思い切った権限移譲
8 ホールディングス要員のスリム化
9 2019年度に自立の可能性について国と協議
10 国有株の売却で除染費用(4兆円)を確保

 東電の収益基盤と企業価値を高める取り組みとして経産省が重視しているのが、送配電と原子力事業での再編だ。JERAを「成功モデル」と位置付け、これを他に拡大できれば福島事業に回すキャッシュが増えるという算段だ。

 人口減少や省エネの進展により、国内の電力需要は減少していく。これに対応するには送配電網をスリム化し、効率を高める必要がある。「送配電網が地域ごとにバラバラでは効率がいいとは言えない。どの電力会社もそれは感じているはず」と東電委員会の冨山和彦委員は言う。

 原発についても、経産省内部では再編論が主流だ。現状、原発の新設計画は完全にストップしており、既存原発の再稼働もままならない。このままでは専門知識を持つ人材の育成や技術レベルの維持は不可能になる。再編により日本を代表する原発運営会社を作れば技術レベルも維持できる。なにより「再編して規模が大きくなれば、万が一過酷事故が起きても対応できる」と経産省幹部は見ている。

 経産省が求める改革の多くは、実は福島原発事故の有無にかかわらず、大手電力会社がもともと向き合わざるを得ない課題でもあった。