茨城県にある東電常陸那珂火力発電所では、杭打ち工事の音が一日中響き渡る。既存発電所のすぐ隣にある敷地で、65万キロワット(kW)級の石炭火力発電所の建設が急ピッチで進む。

 2020年度にも稼働を予定する最新鋭の発電所を所有するのは、15年に東電と中部電力が共同出資で設立したJERA(ジェラ)という聞きなれない企業だ。両社は既にこの会社に燃料事業と海外事業を移管。今年3月末には火力発電事業を統合することで合意した。

 「JERAは最強のモンスターになるだろう」。あるメーカー幹部はこう話す。日本の発電能力の6割以上を支える火力発電のシェアで東電と中部電は1位と2位を占めている。両社の事業が合体すれば、その火力の規模は他社をさらに大きく引き離す。

最大の火力発電会社が誕生
●東電、中部電の火力発電の出力シェア(2016年12月)
出所:資源エネルギー庁

 燃料事業でも国内最大。LNG(液化天然ガス)の輸入量で見れば世界最大だ。規模の圧力で資源国との交渉力を高め、安く購入した燃料を自社で使うほか、必要に応じて外販もする。燃料調達とトレーディング、火力発電とを、ここまで一体運用できる企業は日本はおろか世界でも数少ない。

 JERAを成功モデルに今後の更なる業界再編を進めたい経産省にとって、昨年の廃炉費用の膨張による東電の債務超過危機はJERAの危機でもあった。「福島事故の負担が及ぶのではないか」という中部電の不安を払拭するため、経産省は「JERAが稼いだキャッシュを(原発事故のために)全て召し上げるようなことはしない」(経産省幹部)と強調し、ようやく合意にこぎ着けた。

 東電内部には広瀬社長を筆頭に虎の子の火力を切り出すことに慎重論もあったが、経産省は再編に前向きな若手幹部を抜擢して周到に筋道をつけた。

 その象徴が社内分社化だ。昨年4月、東電は廃炉や原発事業を手掛けるホールディングス(HD)の傘下に、火力発電を手掛ける東京電力フュエル&パワー(東電FP)、送配電の同パワーグリッド(東電PG)、小売りの同エナジーパートナー(東電EP)の各事業子会社がぶら下がる形に体制を変えた。各社がどんな形で再編しても、廃炉を担うホールディングスは残る。

 今後の発電所の新設はJERAが担うことになる。東電は利益の一部を事故処理に充てなければならない。そのため、大規模な投資をする財務的な余裕をひねり出すのは難しかった。JERA統合の実現により、これを乗り越える算段を付けた。

収益力は回復傾向
●東京電力の経常損益の推移

 原発事故前の自前主義を転換する動きは小売部門でも見られる。16年末、電力小売りを手掛ける東電EPは家庭向け都市ガス事業で日本瓦斯(ニチガス)と提携すると発表した。

火力統合で合意する東電HDの広瀬社長(左)と東電FPの佐野敏弘社長(右)、中部電力の勝野哲社長(写真=的野 弘路)
東電EP(小早川社長:右)は都市ガス事業で日本瓦斯(和田眞治社長)と提携(写真=読売新聞/アフロ)

 ニチガスはガス業界で急成長を遂げた異色の企業だ。時に強引に顧客獲得する姿勢を評し「暴れん坊」とも揶揄される。保守的な企業で知られた東電が手を組んだことに驚く関係者は多い。だが東電EPの小早川社長は「(ニチガスは)エネルギー業界の先を目指していくという気概に一番あふれていた」と意に介さない。

 東電は都市ガス原料となるLNGを大量に抱えているが、家庭向けガス事業のノウハウはない。一方、ニチガスはノウハウはあるが原料がない。利害は一致していた。今後はJERAのような共同出資会社を作り、異業種がガス事業に参入しやすくする枠組み作りを共同で進めていくことも検討している。「総合エネルギー企業になるという20年来の夢がかないそうだ」とニチガスの和田眞治社長は笑う。

 東電は弱者ではなく、成長を続ける強者であることを、提携企業は見抜いている。ある提携先の幹部はこう話す。「東電が利益を追求し、なりふり構わず競争を仕掛けられたら誰も勝てない。ならば組んだ方がいい」。福島原発事故の負担が及ぶ心配はないのか。「そのときは東電が解体されるときでしょう。国にその意志はないと思う」(同幹部)。

アライアンス戦略を急拡大
●東京電力グループの主な提携企業