トランプ政権の対中政策は、中国を世界経済の真のリーダーにする可能性がある。為替操作国の認定はむしろ元の国際化をうながすかもしれない。だが、今の中国がこの好機を生かせるか、前途は多難だ。

 「問題は米国が中国をどこまで攻めるかだ」

 みずほ銀行の為替ディーラー、田中義久氏は、4月6、7日の米中首脳会談の結果を聞きながら考え込んだ。両国は会談で、貿易不均衡を改善する方策(100日計画)を100日以内に取りまとめることで合意した。「米国はその交渉を優位に進めるため中国に圧力をかけるはず」(田中氏)と直感したからだ。

 カギになるとみたのが、トランプ大統領が選挙戦の早い段階から主張してきた為替操作国への認定。同大統領は「『中国は輸出競争力を高めるため、元レートを低く抑えている。米国の製造業はその犠牲になった』と繰り返してきた」(伊藤信悟・みずほ総合研究所中国室長)。

 しかし、認定には①対米貿易黒字が年200億ドル(約2兆2000億円)超、②経常黒字がGDP(国内総生産)の3%超、③為替介入による外貨買いがGDPの2%超という3条件をすべて満たす必要があり、いったんは困難とされた。だが100日間の交渉の中で、この基準が変更になる可能性も否定できなくなった。

 トランプ大統領は既に3月末、巨額の貿易赤字を縮小すべく不公正貿易の調査を命じる大統領令に署名している。首脳会談を目前に控えた時期の大統領令発令は、中国へ圧力をかけることで会談を優位に進めようとする意図を秘めたものと映った。

 元に対するトランプ大統領の厳しい視線は、一貫している。米国が中国をすぐに為替操作国に認定することはなくても、100日間の交渉の中で元をめぐる厳しい要求をする可能性は十分ある。「中国からの輸入品に45%の関税をかけろ」。トランプ大統領は選挙期間中からこう主張してきただけに、今後さらに強硬になっていくこともあり得る。

 今、中国は為替政策の岐路に立っている。一つは、経済大国としての将来を明るくする道。その柱は元の国際化だ。貿易などに広く使われる通貨になれば、国際金融システムや世界経済への影響力を高めることにつながる。

 習国家主席が就任した2013年春ごろから実現に向けて本格的に取り組んできた。そして昨年10月に、元は国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)に採用され、第1の目標を達成した。

 SDRは、通貨危機などに備えてIMFが加盟国に配る仮想通貨で、採用されれば、貿易決済などに使われる国際通貨として認められたことになる。「世界第2位の経済大国としてのメンツを保つ意味も大きい」(大和総研シニアエコノミストの近藤智也氏)が、米国に対抗できる大国になる悲願に向けた動きであるのは間違いないだろう。

 もちろん、元の国際化を完全に実現するには、資本取引の自由化や為替の変動を市場に任せるシステムの導入が不可欠。あえていえば、トランプ大統領の為替操作国認定の動きに対応する方が、国際化に近づくことになる。

今は工場の売却すらできない

 しかし、足元を見れば、第1の道はまだ細い。むしろ中国が傾きつつあるのは、岐路のもう一方にある「為替レートを政権が動かす国」への道だ。

 「これじゃあ取引ができない」

 北関東に本社を置く機械部品メーカーA社の社長は頭を抱える。同社は中国・大連で製造工場を約20年前から操業している。ところが、最近の人件費高騰で採算が合わなくなり、地元資本の同業者B社に現地法人と工場を売却して撤退することを決めた。

 中国の外貨管理局がこれに待ったをかけた。こうした取引では通常、最初にB社がA社に買収の頭金を振り込む。そして、譲渡・買収の契約が完了した後に残金を支払う。だが今回、外貨管理局は契約が完了した後でなければ買収に関わる送金を認めないと通告してきたのだ。

 「頭金を受け取る前に契約をして、その後にB社が万一、倒産でもしたら……」。そんなリスクのある取引には乗れないだけに、A社社長の落胆は大きい。

急速な資本流出が進んでいる
●中国の資本流出入の推移
注:データは2006年以降の累積値推計。マイナスの値は純流出
出所:シティグループ証券の資料を基に本誌作成
(写真=背景:新華社/アフロ)

 今、中国ではこうした資本規制が頻繁に実施されている。狙いは、元の国外への流出を抑えることだ(上のグラフ参照)。

 背景にあるのは、14年から続く元の下落。元の対ドルレートは、14年1月末の1ドル=6.05元をピークに下がり始め、足元では1ドル=6.89元まで落ちている(下のグラフ参照)。トランプ大統領は、中国による為替操作がこの元安をもたらしたと断じているのだ。

2014年から急速な元安が進んでいる
●ドル人民元レートの推移
出所:みずほ総合研究所の資料を基に本誌作成