工場のデジタル化でGEと対照的な方法を進めているのが、中小型のNC(数値制御)旋盤でトップクラスのシェアを持つシチズンマシナリー(長野県御代田町)だ。

 GEはいわば「トップダウン型」。グループに横串を通す新組織GEデジタルを作り、統一プラットフォームにあらゆるデータをためる体制を整えた。7つのモデル工場にGEデジタルのエンジニアを派遣するなど、本社のリーダーシップで効率的にプロジェクトを進めている。

 一方のシチズンマシナリーは「草の根型」。製造ラインの設計などを担当する生産技術部が中心となり、生産効率を上げる必要最小限のデジタル化を最小限のコストで実施している。

 モットーは「身の丈にあったデジタル化」(柳平茂夫執行役員)だ。小さく始めて成果を出し、出た利益を次に生かして大きく育てる。

 海外子会社なども含めて従業員1650人の中堅メーカーならではの方法、と言ってしまえばそれまでだが、背景には中小規模のメーカーがデジタル時代を生き残るための戦略があった。

 まずは、同社が自社工場で実践しているデジタル化の内容から見ていこう。

 シチズンマシナリーの本社工場は大きく、部品を機械で加工する「加工エリア」と、部品を組み立てる「組み立てエリア」の2つに分かれる。

センサーで見えなかった盲点

人手不足解消
事例 1 機械メンテナンス作業の効率化
従来は、メンテナンス作業のたびに紙に情報を記入していた。タブレットでの記録に替えたことで作業効率がアップ。機械のダウンタイムも10%削減できた
事例 2 「デジタル作業手順書」の活用
作業手順書を画面に表示しながら進捗を管理する。工具ともワイヤレスでつながっており、ミスを防ぐ「ポカヨケ」の役割も果たす

 小物部品の加工ラインには巨大なマシニングセンターが2列に6台、縦長の自動倉庫を囲むように配置されている。倉庫の中には加工前と加工後の大型部品が置かれており、自動でマシニングセンターに投入したり、加工後の部品を取り出したりする機能がある。

 24時間稼働できるようになっているが、今より生産性を上げるには、マシニングセンターの稼働率を上げることが不可欠。そこで取り掛かったのが、「機械の不具合がどんなときに起きているか」を現場に聞いて回ることだった。

 機械の稼働状況、機械のドアの開閉などのアラートデータは、あらかじめ機械に搭載されているセンサーから入手できる。だが、ヒアリングしたところ、機械を止める原因として多いのが、機械を動かすのに必要な潤滑油が減っていたり、汚れていたりすることだと分かった。こうしたデータをセンサーで自動的に収集する仕組みは機械には搭載されていなかった。

 潤滑油の不足や汚れが起きないように、現場では全ての機械を日々、点検していた。機械に張り付けた書類にチェックを入れ、油の追加量を記入する。管理者は、この点検がきちんと行われているか、それぞれの機械を定期的に回って確認していた。

 地味ではあるが、機械の稼働率に大きな影響を与える一連の作業。それをデジタル化のターゲットにした。

 点検作業を機械化するにはコストがかかりすぎる。そこで、点検記録を紙ではなくタブレットでの入力に切り替え、管理者が現場を回らなくてもデスクのパソコンから点検状況を把握できるようにした(事例1)。

 紙からデジタルへ。極めて単純なカイゼンとはいえ、機械メーカーでもあるシチズンマシナリーにとってこれは重要な「気づき」だった。

 機械にセンサーを搭載しようと思えばいくらでもできる。ただ、やみくもに増やしては過剰投資になるだけ。本当に必要なデータは何かを見極める上で、自社工場のカイゼンは顧客を開拓する上でも重要な役割を果たしている。

 シチズンマシナリーが今、特に開拓しようとしている顧客層は中小メーカーだ。莫大な投資をしないのも、それが自社にとって投資対効果が高いことに加え、一般的な中小メーカーの実状に即しているからでもある。

 中小メーカーは今、深刻な人材不足に頭を悩ませている。大手セットメーカーに部品を供給するために海外進出しても、同じ機械を導入したからといって同じ品質の部品を同じペースで作れるわけではない。海外で優れた機械のオペレーターを雇ったり、ゼロから育てたりするのは簡単ではないからだ。

中小企業の技術を機械の制御プログラムに反映

熟練技能者不足を補う

 日本でも00年ごろから熟練工の不足が深刻になっている。経営者自身の匠の技で生き延びてきた町工場にも、世代交代の時期が迫る。「二代目が継いでくれればいいが、そうでなければ匠の技は失われる。継いでくれたとしても二代目が熟練の技を身に付けるには時間がかかり、その間にグローバル競争に負けてしまう」(柳平氏)

 この課題を克服するためにシチズンマシナリーがこの4月から提供を始めたのが、「アルカートライブライト(alkartlive LITE)」と呼ぶ新サービスだ。クラウドを活用することで価格は360万円(税抜き)に抑えた。

 このサービスは、顧客先の機械から稼働状況や加工数といったデータを定期的に吸い上げ、クラウド上に蓄積するというもの。そのデータを分析した「稼働状況リポート」をシチズンマシナリーが作成し、提供する。

 導入企業が自らの設備の稼働状況や異常などをリアルタイムで把握できる。インターネット上のアプリケーションを使ってグラフなどが簡単に作成できるため、自社のカイゼンに役立てることもできる。

稼働率1%増で利益率2%増

 このサービスの先にシチズンマシナリーが思い描いているのが、「中小企業の匠の技を機械にインストールする」(柳平氏)という試みだ。

 機械のわずかな音の変化から故障の予兆を察知する。部品の素材や気温などの条件から、最適な加工方法を見つける。それらはマニュアルや口頭などで伝えることが難しいとされてきた。

 中小メーカーを支える匠の技。そのデータを大量に集めて分析すれば、機械の音の変化が具体的にどの部分の振動の変化を指すのか、素材と気温との関係性は加工条件にどう影響しているのかが解明できる可能性がある。この知見を機械の制御プログラムに反映させるのだ。

 シチズンマシナリー製の機械を20台導入しているある中小メーカーの財務状況を分析したところ、機械の稼働率を1%向上させるだけで利益率を2%増やせることが分かった。機械に匠の技が加われば、その生産効率はさらに高まる。

 設備の進化によって顧客の競争力が高まれば、日本で生産を続けられる工場が増える。「その中核にシチズンマシナリーがいられればいい」(柳平氏)という考えだ。