「今日のイベントどうだった?」

 あるアイドルが生配信でこう呼びかけると、閲覧中のファンから一斉にコメントが届く。「かわいかったよ!」「新曲よかった!」「早くまた会いたい」。アイドルは、うれしそうな顔でそのコメントを一つひとつ読み上げていく。

「ショールーム」の画面。中央の女性がアイドル。ファンはアバター(キャラクター)で表示される

 これは、東京都渋谷区に本社を置くIT企業、ショールームが運営するライブ動画ストリーミングプラットフォーム「SHOWROOM」でのやり取りだ。

 動画を通じてアイドルと双方向のコミュニケーションをとることができるサービスで、13年から事業を開始。登録者は既に120万人を超える。AKBグループから地下アイドルまで多くのアイドルがSHOWROOMを利用しており、アイドルにとって欠かせないファンとの交流手段になっている。

 自社のファンを作るため、顧客との対話を重視する──。そんなモットーを掲げる一般企業は多いが、実際には、お客様相談センターへの電話すらつながりにくいのが実情だ。

 それに比べれば、「リアルタイムで消費者一人ひとりと対話する」というだけでも先進的だが、SHOWROOMのすごさは実はそれだけではない。最新の心理学の知見から、ファンのより深い心理的欲求をかなえる仕組みが存在する。

心理学を駆使した驚きのシステム

 「アイドルファンの欲求は、認知、承認、応援に分かれます」。ショールームの社長、前田裕二はこう説明する。多くのファンは、認知、承認、応援の順に欲求を満たしていき、最終的には不動のファンになる。

 老若男女を問わず、特定のアイドルのファンになった消費者がまず抱くのが「認知欲求」。つまりアイドルに自分の存在を知ってもらいたいと思うようになる。SHOWROOMの場合、この欲求は簡単に満たすことが可能だ。無料のハートを送ったり、コメントを送れば「○○さん、いつもありがとう」とアイドルがその場で返事をしてくれたりする。

 認知の欲求が満たされると、次に「承認欲求」が芽生えるファンが多い。アイドルに自分が他のファンよりも特別に応援していると承認してもらいたいと願う気持ちだ。この欲求が満足する最も簡単な方法は、他のファンより目立つことだ。

 SHOWROOMの場合、アイドルの姿は実写映像でファンに見えているが、アイドル本人やファン同士では、ファンの姿は「アバター」(化身、動物などのキャラクター)で見えている。有料の「ギフト」や大量のハートを購入してアイドルに送ると、アバターが目立ったり最前列に移動できたりするのだ。

 アイドルは当然それに気付き、そのファンに「他のファンへの態度とは一線を画した特別な感謝」をする。「○○さん、いつも本当に、本当にありがとう」。ファンの承認欲求が満たされる瞬間だ。

どんな趣味にもない満足感

 ここまで来ると多くのアイドルファンは、現実の芸能界でアイドルに活躍してほしいと願うようになる「応援欲求」に入っていく。より多くのギフトやハートを購入して、応援しているアイドルのギフト累積数を増やしていく。一定期間内で有料のギフト数が多かった人は、民放のテレビ番組に出演できたり、イベントの司会などができたりする「ご褒美」があるからだ。

 「ふとしたきっかけで知ったアイドルを応援するようになり、のめり込んだ揚げ句、そのアイドルが念願のデビューを飾る。これはどんな趣味でも味わえない満足感」(30代男性ユーザー)

 一連の仕組みを「そこまでやるのか」と驚かれる読者もいるかもしれない。だが、SHOWROOMが、顧客心理を理解した、他産業には見られない「本当の双方向コミュニケーション」であるのも紛れもない事実だ。