国内の人口減が進む中、海外展開なくして、30年ブランドが成長し続けるのは難しい。アサヒは1兆円超の買収でビールの本場に攻め込むが「世界ブランド」への道は険しい。

英国ロンドンの小売店では、スーパードライが並ぶのはアジア各国のビールと同じ棚。ハイネケン(下)に追い付くのは至難の業だ(写真=永川 智子)
(写真=ロイター/アフロ)

 短期間での2度の大型買収への高揚感があふれていた。「競争力のあるグローバルメーカーになるため、躊躇なく決断した」。アサヒグループホールディングス(GHD)の小路明善社長はインタビューでこう言い切った。「こんなに高いポテンシャルを持った状況におかれている。身震いがするほど」

 2016年10月、アサヒはビール世界首位のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)による2位英SABミラーの買収に絡み売りに出された旧SABの西欧ビール4社を2945億円で買収。昨年末には同じ旧SABの東欧5カ国のビール事業を17年上期中に8883億円で買収すると発表した。

 小路社長は将来的な構想と前置きしながら、「スーパードライなどブランドの海外展開の司令塔を、買収した欧州拠点に置くことも考えたい」と明かした。長らく目指してきたスーパードライのグローバル化に勝算を感じての発言だが、現状その道のりは険しい。

 2月上旬の平日の昼過ぎ、英国ロンドン市内の高級スーパーは来店客でにぎわっていた。酒売り場には世界各国のビールがずらり。オランダの「ハイネケン」、メキシコの「コロナ」といった有名ブランドに加え、日本ではなじみの薄いブランドも多数並ぶ。

 一方、日本代表の「スーパードライ」は、タイの「チャーンビール」、中国の「青島ビール」などアジア勢と、一緒に並んでいた。お世辞にも目立っているとは言い難い。ちょうどスーパードライを買いに来た、左の写真の青い髪の若者は「おいしいからいつも飲んでるよ」と話したが、売り場の状況からはアジアの珍しいビールといった扱いだ。

 棚を整理中の男性店員に聞くと、記者が日本人だと知ったからなのか「もちろん一番売れてないわけじゃないよ」と、笑顔で答えた。アサヒGHDの泉谷直木会長も、「スーパードライはあくまで『Far East(極東)』のビールというのが現実」と認める。

 一方、所を変えて3月上旬の香港。現地で随一の人気ナイトスポット、蘭桂坊(ランカイフォン)の高級ビアバーでは、スーツ姿のビジネスマンが「Asahi」のロゴが入ったグラスを傾けていた。店内にはスーパードライの樽生ビールを注ぐためのスタイリッシュなサーバーが光を放つ。

 「スーパードライは20~30代後半に人気だね」。香港中心部でバーを経営するジェリー・タンさんはこう話す。この店では、スーパードライの取り扱いは店全体の10~15%程度。収入の高いホワイトカラーが愛飲者という。

 アサヒが海外戦略でお手本にしているのが、オランダのハイネケンだ。バーを拠点に、ブランドイメージを浸透させるのも同社が得意とする手法だ。

 1864年創業のハイネケンはビール世界シェアで2位を誇る。同名のビールブランド「ハイネケン」は世界約190カ国で売られ、赤い星のデザインと緑色の瓶はあまりに有名だ。

 ビールは国ごとにローカル製品が強く、グローバルブランドが育ちにくい。そんな中、ハイネケンは、世界各国に製造拠点と強固な販売網を持ち、欧米だけでなく東南アジアや南米でも安定したシェアを持つ。全世界での販売量はスーパードライの約2.3倍に達するとの推計もある。プレミアムビールとしてのブランド力も含め、世界で最も成功したビールとも評される。

 ハイネケンは進出先では外食店などを開拓し、F1など人気スポーツのスポンサーにつくなどして高級感を訴求。ブランドを浸透させ、販売網を生かして小売店での取り扱いも広げてきた。

 大衆価格帯で数量を追求するのではなく、洗練されたブランドイメージの浸透を優先する。だが、スーパードライの海外販売は、当初からそうした明確な戦略が描けていたわけではない。