「負け組」だったアサヒを業界トップに押し上げたスーパードライだが、10年以上、販売は下降局面にある。過去の大成功ゆえに変えられない呪縛にさいなまれてきたが、ここにきて、ようやく改革への機運も出てきた。
新商品の「スーパードライ エクストラハード」。大々的に売り出す小売店は多い( 写真=太田 未来子)
「今は価値をどう訴求するか。革新性は出た当時に作り出すもので、いまスーパードライに革新性を持たせたら消費者は離反する」。アサヒビールを傘下に持つアサヒグループホールディングス(GHD)の小路明善社長は強調する。これがスーパードライの現在の立ち位置だ。発売30年を経てすっかり保守的なブランドになった。
そんなスーパードライでできることは何か。ここ数年、アサヒが取り組むのが派生商品の「連打」だ。
3月14日、新商品「アサヒスーパードライ エクストラハード」を発売した。強い炭酸と高めのアルコール度数が売り。東京、大阪など全国各地のスーパーでは売り場の目立つ位置に並び、買い物客が次々と手に取っていった。
アサヒはエクストラハードを含め、これまでに4種類の派生商品を投入した。そこには2つの理由がある。
販売量はピーク時の半分に
まずはスーパードライの販売の落ち込みに歯止めをかけるためだ。派生商品を出せば、スーパーなどで多くの棚を確保しやすい。派生商品を機に、従来のスーパードライにも手を伸ばしてもらおうという思惑もある。
生ビールをスーパードライから他の銘柄に切り替える飲食店も(写真=大槻 純一)
スーパードライは1987年の発売後、わずか2年で販売数量が1億ケース(1ケースは大瓶20本換算)を突破。ピーク時の2000年には1億9170万ケースを売り上げた。だが、その後は減少傾向。16年の販売数量は1億ケースと、ピーク時からほぼ半減した。日本のビール市場の縮小と連動しているとはいえ、その落ち込みは劇的だ。
「1億ケースの死守」。アサヒ社内で、これを必達目標と感じる社員は多い。業界2位、キリンビールの「一番搾り」(同3500万ケース)とは桁違いの圧倒的トップという自負心が、1億ケースへのこだわりを生んでいる。
だが誰もが知る銀色の缶のスーパードライだけでみると、すでに1億ケースは下回っている。派生商品を合わせて、ようやく大台に乗っている格好だ。
ただし、派生商品込みであっても、年間の販売数量は前年割れが続いている状況。ここまで派生商品は起死回生策にはなっていないのだ。今年は年間1億ケースの維持すら危ぶまれる。
派生商品を投入するもう一つの理由は、スーパードライ本体を刷新するリスクが大きいと考えているからだ。
「キリンの二の舞いにはなるな」。これもアサヒ社内で繰り返し語られる。
スーパードライの発売後、危機感を持ったキリンは1996年、主力のビール「ラガー」の製法を、熱処理をしない「生ビール」にした。生ビールであるスーパードライの土俵に乗った結果、ファンが離反し、大打撃となった。
アサヒはこれを反面教師にしてきたのだ。過去30年、スーパードライは、酵母の管理や仕込み技術を進化させ、味が変化しにくいようにしてきたが、大幅なリニューアルは一切していない。原料や缶の基本デザインはほとんど変えていないのだ。売り上げの落ち込みが顕著なだけに、大刷新に踏み切ってもよさそうなものだが、アサヒは頑ななまでに、変化を避けてきたのだ。
発売30周年の今年、パッケージは微修正した。ただしそれは、缶の銀色で新しい色味を開発し、棚に置いた際に輝きやすくしたという微細なものだ。
スーパードライは現在も年間5000億円規模の看板商品で、アサヒビールの売上高の5割強を稼ぐ。スーパードライに大きな異変があれば、会社が揺らぐと言っても過言でない。いつしか変えるのが「非常にリスキー」(小路社長)になってしまった。
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