止まらないサービス産業化

 東京の産業構造はすさまじい勢いで変化した。1965年には製造業18分類のうち、自動車、電機、化学、金属製品など9業種で出荷額が全国1位だったが、今は印刷や皮革製品など2業種のみ。70年代半ば以降、トップの2業種を除いた他業種は、愛知県、静岡県、大阪府などに取って代わられた。2000年以降は特に変化が速く、製造業出荷額は00年の15兆3000億円から14年には8兆2000億円へほぼ半減している。

 製造業の衰退に代わって急拡大したのがサービス産業だ。都内総生産に占める卸売り・小売り、金融・保険、不動産、情報通信、サービス業の割合は1980年の62.3%から2014年には74.9%に上がっている。しかも、1980年の統計では、情報通信の中に別業種である運輸(4%程度)が加えられており、それを除いて考えると実際の変化率はさらに大きくなる。

 産業構造が大きく変わった東京にかつてのような経済の力強さはない。

 昨年10月末、東京・京橋にできた32階建て複合ビル、京橋エドグラン。オフィスに飲食店や高級スーパー、多目的ホールなどを備えており、京橋再開発の柱と期待されたが、当初はオフィスが募集目標に届かず、賃料を10%程度下げてようやく埋められたといわれている。

 エドグランだけではない。東京の2016年10~12月期のオフィスビル賃料(Aグレードビル)は、前四半期比でわずか0.6%増。札幌が2.7%、福岡は2.6%、京都も1.6%の上昇なのに対し、極めて低い水準だ(冒頭の「都市別オフィス賃料の前四半期比伸び率」グラフ参照)。

 企業収益に天井感が見えてくる一方で、オフィスの大量供給は今後も続く。森ビルの調査によると、16~20年までの5年間に東京23区で新たに竣工するオフィスビルの床面積は572万平方メートル。東京ドーム約120個分に相当する広さだ。

 みずほ証券の上級研究員、石澤卓志氏は「グローバル化が進む大企業は国内景気とは別に、東京の本社機能を高めようとする。そうした需要を見込んでの建設ラッシュだろう」と分析する。

 一方、地方は需要に見合う程度しか建設されないため、賃料が上昇しやすい。地方とは分断された東京の経済構造が、サービス産業(不動産)の付加価値を高める力を落としているのだ。

 不動産だけではない。東京都内のホテルは、客室数が04年度から14年度までの10年だけで2万4000室増え、延べ14万4000室となった。

 今年2月、東京・日本橋横山町に風変わりなカプセルホテル「ファーストキャビン」がオープンした。

 1室の面積は4.4平方メートルと2.5平方メートルの2種類。蚕棚のような通常のカプセルホテルより広く、共同施設として大浴場やカフェも備えた。それでいて料金は広い部屋が6800円、狭い方が5800円。ビジネスホテル並みの快適さと高級感を狙った戦略で、09年4月に大阪市に1号店を出して以来、今回が9店目。15年から出店ペースを加速させ、今年はさらに4店を出す計画だ。

 ファーストキャビンと競合するのは、1泊6000円から9000円程度のビジネスホテル。最も顧客層の厚いゾーンに低価格で挑む。出店は軌道に乗り始めたばかりだが、売り上げは順調に伸びており、22年には100店に広げる。出店の中心は「市場の大きい東京」(大和田雅子・経営企画室マネジャー)だ。

 ホテルの分野で最も市場規模が大きく、激戦の価格ゾーンでファーストキャビンの存在感が高まれば、東京の既存勢力は料金を上げづらくなる。当然、次にくるのは競争激化が生む低価格化である。

 新興勢力による挑戦が、サービス産業の低価格化をもたらすだけではない。異業種間のぶつかり合いも、価格を上げにくい構造を作り出している。

 「やっぱり来たか」。今年2月28日、セブン-イレブン・ジャパンが、コンビニエンスストアのセブンイレブン全店を対象にレギュラーコーヒーとパン1個の組み合わせで、本来の値段から約17%割り引いた200円の朝セットを発売。コンビニ業界だけでなく、外食業界からも警戒の声が上がった。

 コンビニが弁当やおにぎりを充実させるにつれて、外食産業と競合するようになったが、それを加速させかねない動きだからだ。朝セットは全国販売だが、影響が大きいのはハンバーガー、牛丼などファストフードや、低価格なファミリーレストランが集中する東京。値上げしづらい環境が業種を超えて広がっている。

 サービス産業の付加価値が増えないもう一つの要因は、「サービス産業の中核である金融業の停滞」(大久保敏弘・慶応義塾大学教授)にある。

 1980年度の都内総生産に占める金融・保険業の付加価値の割合は11.9%だったが、2014年度は9.6%と、むしろ縮小している。算出ベースが少し異なるといった事情はあるが、同年のGDPに占める金融・保険業の付加価値の比率は、英国が日本の1.7倍、米国は同1.6倍に達している。

 「製造業の比率が低下していくのは、先進国の主要都市では一般的な傾向。それに代わる中核産業として金融が付加価値を稼ぐことが多いが、東京はその点で置いていかれている」(山崎朗・中央大学教授)。