東京と地方経済分断の背景にあるのは、東京の成長停滞だった。サービス産業化が進む中、過当競争と金融停滞が首都をさいなむ。大企業の成長も大きく落ち込み、牽引力は望むべくもない。

「東京都心を経由せずに6つの高速道路を相互に利用できます」
2月26日、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の境古河インターチェンジ(IC)~つくば中央IC間が開通し、1985年に建設が始まった圏央道の茨城県内区間が全通した。

東京から放射線状に延びる「東名」や「中央」、「関越」など9つの高速道路をつなぐ環状の高速道路は3つある。一般に「3環状」と呼ばれる高速道路は内側から順に中央環状線、東京外郭環状道路(外環道)、圏央道という名称が付いているが、今回の開通で、例えば千葉県成田市の成田国際空港から圏央道を走り続ければ渋滞が多発する首都高速を通らずとも東名高速に抜けることができるようになる。「埼玉県の立地環境は大幅によくなる」(県企業立地課)。圏央道の建設が着々と進むことを喜ぶ首都圏の自治体は多い。
首都圏を通る高速道路の建設は急ピッチで進み、2020年までには3環状の9割が完成する予定。すでに15年には首都高速中央環状線が開通している。中央環状線の全長は47km。こちらは渋谷、新宿、池袋といった繁華街の地下をぶち抜く高速道路だ。これにより交通渋滞の度合いを示す渋滞損失時間は首都高全体で4割減ったという試算もある。
圏央道の総事業費は約3兆円、中央環状線は約2兆円。莫大なおカネを投じた大事業は当初、「東京の混雑解消が目的だった」(1970年代末から圏央道や外環道の建設に関わった建設省=現・国土交通省=の元官僚)。
東京は成長しているのか
だが、お決まりのように事業費が膨張。それでも建設が続いたのは、東京の機能を高めれば、日本経済の底上げにつながるという考えが根底にあったからだろう。
東京の機能高度化は鉄道インフラの整備を見てもわかる。下の図は、東京から地方への鉄道による時間距離の変遷である。新幹線や高速鉄道網の整備で、東京との時間距離は、時代を追って短縮している。東京を核とした経済構造を作り上げようとしてきたことは言うまでもないだろう。

しかし、東京は本当に成長しているといえるのか。
確かに東京を中心にした首都圏への人口流入は90年代後半から再び増え始め、現在は戦後3度目の集中期に当たる。大阪、名古屋圏への人口流入は80年代以降止まっており、人の流れだけを取れば一極集中といえる。
しかしGDP(国内総生産)成長率に相当する東京の都内総生産(名目)の伸び率は、直近の全国版統計(2013年度)で前年度比わずか1%増にすぎない。全国で31番目という低い水準だ。
さらに驚くべき数字がある。東京都が独自に集計した都民経済計算(見込み)によると、16年度は1%のマイナス成長にまで落ち込んでしまうというのだ。
毎年、世界の都市総合力ランキングを発表している森記念財団のまとめによると、シンガポール、香港、上海、北京などアジア新興国の主要都市は16年に4.5~8.2%の成長を遂げており、東京はここでも大きく水をあけられている。
東京の景気低迷の主因は、卸売り・小売り(マイナス1.1%)と金融・保険(同2.4%)などの業績が低迷したことにある。「16年は、円高でインバウンド消費が減り、その恩恵を受けてきた東京では小売りが停滞した。原油価格の下落で東京に多い商社(卸売り)も影響を受けた。金融はマイナス金利の影響で、やはり東京に多い銀行の収益が苦しくなった」(UBSウェルスマネジメントチーフエコノミストの青木大樹氏)。サービス産業が不振に陥り、それが経済全体を押し下げたのである。
それにしても、長期にわたって人口流入が続きながら成長しないのはなぜなのか。アンバランスを生んだ原因の一つは、東京経済のサービス化が進みながら、そのサービス産業の付加価値そのものが増えていないことにある。
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