大学の画一化と高校の多様化で、「出身高校こそ人材を見抜く鍵」との声が高まっている。生物学の視点で見ても「人は高校時代が9割」との仮説には裏付けがある。仮説が正しければ、企業を悩ます「一流大でもダメ社員」が生まれる背景も見えてくる。

 PART1では東大・京大合格者を急増させている新勢力を取り上げたが、高校の価値を測る尺度は進学実績だけではない。むしろ重要なのは、社会に出てから実際に活躍できる優秀な人材をどれだけ育成しているかだ。

 2017年秋、東京・原宿の居酒屋で各界の異能人材が集う宴会が開かれた。呼びかけたのはLINEの出澤剛社長、アフィリエイト(成功報酬型広告)の先駆けとして知られるファンコミュニケーションズの柳澤安慶社長、ニュースアプリ「グノシー」や家計簿アプリ「マネーフォワード」のデザインを手掛けた新鋭IT企業、グッドパッチ(東京・渋谷)の土屋尚史社長の3人。さらに、興行収入で日本映画歴代2位を記録した16年公開のアニメ映画「君の名は。」を指揮した新海誠監督も加わった。

 4人の出身大学は早稲田大学、成城大学、関西大学(中退)、中央大学とばらばら。だが4人には「新進気鋭のイノベーター」という点以外にもう一つ、共通点がある。長野県佐久市の県立野沢北高校(野北)出身という点だ。

<span class="fontBold">風光明媚な景色に囲まれた野沢北高校。その地域性や伝統行事が自主性や協調性を育む仕掛けになる</span>(写真=上左:尾関 裕士、上中:朝日新聞社、上右:共同通信、下:長井 一典)
風光明媚な景色に囲まれた野沢北高校。その地域性や伝統行事が自主性や協調性を育む仕掛けになる(写真=上左:尾関 裕士、上中:朝日新聞社、上右:共同通信、下:長井 一典)
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ベンチャー界で噂の人材輩出高

 「一体どんな学校なのか」──。実はこの野北、ここ数年、ベンチャー業界の人事担当者の間で「異才輩出校」と話題になっている。実際、同校OB・OGには、ほかにも宇宙飛行士の油井亀美也氏やジャーナリストの青木理氏、千昌夫の「北国の春」の作詞家、いではく氏らが名を連ね、「北斗の拳」を手掛けた漫画家、武論尊氏もごく短期間だが在籍していた。

 長野県は盆地ごとに旧制中学が作られ、その各校が地区の優秀な生徒の受け皿となっており、野北は一応、佐久盆地のトップ校ではある。ただし、長野高校や松本深志高校など県内のトップ校と比べれば進学実績は見劣りし、東大の進学実績も年1人いるかいないか。特に目立った教育方針もない。

 あえて高校のタイプを言えば、自由放任主義。出澤氏、柳澤氏、土屋氏は授業をサボる常習犯で喫茶店や部室で恋愛話やゲーム、読書に明け暮れた。ハンドボール部で北信越大会に出場するなど部活に打ち込んでいた土屋氏が受験勉強を始めたのも引退後だ。

 そんな野北がなぜ有能人材を目立って輩出するのか。卒業生からは様々な仮説が上がる。

 まずは環境説。新海誠監督の作品にも影響が見られるように、佐久盆地は雄大な自然に囲まれている。西から南には八ケ岳連峰、北には浅間山の山並みが広がる。山頂で雨や雪を降らせて乾いた空気が盆地を覆うため、冬場も晴れ間が多く、星が奇麗に見える。「あれこれ思考し想像力を育むにはいい環境だ」と柳澤氏は話す。

 「全くの自由放任ではなく、社会に出てから本当に必要になる力を育む行事が多い」との指摘もある。その一つが旧制中学時代から続く「応援練習」だ。応援団服の学ランに身を包んだ上級生が、入学直後の新入生全員を放課後校庭に連れ出し、同校の応援歌や学生歌、校歌を歌わせる。不真面目な生徒は前に連れ出されてやり直しさせられる。

 これは日本一の進学校、開成中学校・高校でも実施されている伝統。開成OBの松本大・マネックス証券社長が当時の最も印象的な出来事と挙げるのも応援練習だ。「仲間との連帯や理不尽に耐えることなどを学んだ」。松本氏はそう振り返る。

 「野北からなぜ面白い人材が出るのか、明快な答えはない。ただ言われてみれば確かに、“程よく自由、程よく田舎”の環境の中で、大学で専門スキルを学び始める前に手に入れておくべき自主性やコミュニケーション力を磨きやすい高校なのかもしれない」。LINEの出澤氏はこう話す。

 野北の話を聞いて「単なる偶然」と切って捨てる人もいるかもしれない。だがあるIT企業の人事担当者は「野北に限らず、有能な人材の土台は大学ではなく、高校で作られている。本当に会社に入ってから伸びる人材が欲しければ、大学でなく出身高校を見るべきだ」と強調する。

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