進む「脳内見える化」技術

 これまで放射性医薬品は、検査直前に病院で調合する必要があった。だが、富士フイルムRIファーマはこうした手間がいらない製剤を開発し、16年12月に厚生労働省の承認を得た。

 認知症の早期発見には、このPET検査を受けてもらうのが望ましいが、予防的な意味合いがあるこの検査は、保険診療でカバーされず全額自費となり、数十万円もかかるとされる。

 さらに、経過を追うために頻繁に検査したくても、その都度患者が放射線を浴びることになってしまう。ここに挑むのが、北海道大学と共同でMRI(磁気共鳴画像装置)を用いた新技術を開発する日立製作所だ。放射線の被ばくがないMRIを駆使することで、検査への障壁を下げようとしている。

 MRIを用いた検査では、VBMと呼ばれる手法が既に一般的だ。頭部を1辺数mmの小さな立方体に分けて分析、画像にすることで脳の萎縮の程度を見える化する。

 ただし、萎縮しているからといって認知症とは限らない。そこで日立製作所はMRIで同時に、もう一つの検査を実施しようとしている。「QSM(定量的磁化率マッピング)」という手法だ。

MRIで原因物質を確認
●日立製作所の新技術「QSM」の使用イメージ
MRIで原因物質を確認<br /> <span>●日立製作所の新技術「QSM」の使用イメージ</span>
日立製作所は、MRI(左)を用いて「QSM(定量的磁化率マッピング)」を撮像できる技術を開発している。鉄分を含む部分が白く浮かび上がる(右)ので、血液の流れる場所や漏れている部分を把握できる
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 QSMでは、MRI機器で発生させた磁気の微小なゆがみを読み取ることで脳内のどこに鉄分が蓄積しているかを高い精度で予測できる。近年の論文では、認知症患者は脳の特定の部位で炎症を起こすため、そこに血の成分である鉄が蓄積しやすいことが指摘されている。これが証明された上で「VBMとQSMの双方で検査の精度を高めれば、MRIだけで認知症を診断できる可能性が出てくる」(同社ヘルスケアビジネスユニットの尾藤良孝氏、52)という。技術的な課題の解決は3年以内をめどとする。

 技術開発に挑むのは、医療機器メーカーだけではない。「診断」とまではいかなくても、温度計や体重計のように、自宅で簡易に「認知症の兆候」を察知できるスクリーニングデバイスの開発が既に始まっている。

 「認知症は誰でも発症する。認知症の可能性をできるだけ早く察知できる環境を整えるには、家庭で手軽に使える機器の開発が欠かせない」。こう話すのは、大阪大学産業科学研究所の関谷毅教授(40)。額に貼るだけで脳波を測定できるシート型センサーを開発した。

 見た目は発熱時に使う冷却シートに似ている。ペタッと貼るだけで、α波やβ波など、さまざまな種類の波長の状態をリアルタイムで計測できる。認知症の患者が出す脳波には特徴があるとされており、それを検出することで早期発見を目指す。

 関谷教授はセンサーの商品化を目指してベンチャー企業、PGV(大阪府茨木市)を立ち上げる。大阪大学のベンチャーキャピタルから出資を受け、今年4月から活動を本格化させた。

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