認知症患者の増加を少しでも抑えるにはどうすればいいのか。この根本的な問題に「技術」で立ち向かう企業がここ数年、相次ぎ登場している。

脳の神経細胞死を防ぐ
●開発中のアルツハイマー病薬が効く仕組み
注:各社の発表資料を基に編集部で作成(写真=GSO Images/Getty Images)

 現在、認知症に関わる研究開発には大きく2つある。発症を遅らせるための「薬」と、薬の効果をなるべく早い段階で享受するための「早期診断」だ。

 認知症治療薬で「開拓者」といわれているのがエーザイ。アルツハイマー型とレビー小体型(2014年承認)の認知症の症状緩和に効果が望める「アリセプト」を、日本では1999年に発売した。

 認知症に対する処方薬はそれまで存在していなかったため、患者に家に帰りなさいと言うしかない。その意味で認知症は「ゴー・トゥ・ホームの病と呼ばれていた」(同社ニューロロジービジネスグループの日比滋樹氏、54)。

 アリセプトの登場で、医師が薬を処方できるようになった。だがアリセプトは、原因に働きかける「根本療法」ではなく、認知機能が低下した神経細胞をより働きやすくする「対症療法」でしかない。その後、いくつも「新薬」が登場したが、いずれも対症療法薬だった。

 そんなエーザイが今、2020年度以降の販売に向けて着々と準備を進めている新薬が、バイオベンチャーの米バイオジェンと共同で開発した「E2609」と「BAN2401」である。

 両方とも、認知症患者の中で最も多いとされるアルツハイマー型の原因に直接、働きかける。前者は治験の最終段階であるフェーズ3、後者はその前のフェーズ2の状況だ。認可が下りれば、認知症治療は根本治療に向けて1歩、前進することになる。

 根本原因として有力視されているのが、「アミロイドβ」と呼ばれるたんぱく質が凝集してできる「アミロイドβフィブリル」という物質だ。これが蓄積すると脳に黒い斑点(老人斑)ができる。このアミロイドβフィブリルと老人斑が、神経細胞を殺している可能性が高いと考えられている。

 アミロイドβは、細長いミミズのような形をした「アミロイド前駆体たんぱく質(APP)」の一部だ。APPの末端部分がβセクレターゼ(BACE)などと呼ばれる酵素で切断されると、生成される。なぜ切断されるのかは解明されていないが、アミロイドβの生成を防ぐことが、認知症進行の抑制につながると考えられている。

 E2609は、ハサミのような機能を持つBACEに自らピタッとはまって切断機能を失わせる。同様の働きを持つ薬は、MSDやイーライリリーなどの競合他社も開発に取り組んでいる。

 BAN2401は、アミロイドβフィブリルと結合する抗体だ。結合後は脳のお掃除機能を持つ細胞であるミクログリアにのみ込まれる。

 またアミロイドβとは別に、神経細胞の中に「タウ」と呼ばれるたんぱく質も蓄積する。その結果、神経細胞の突起が縮み、細胞は死んでしまう。このタウと結合する抗体を、バイオジェンが開発している。

 富士フイルムグループの富山化学工業が開発中の「T-817MA」は、神経細胞死の原因となる損傷から細胞を保護するほか、神経細胞の突起が伸びるのを助ける効果が期待できる。現在日米でフェーズ2の治験が行われている。

 エーザイニューロロジービジネスグループの木村禎治執行役(53)は、「新薬が登場すれば患者の人生に画期的な変化をもたらす」と期待する。早期に発見し、早い段階から治療を始められれば、症状が深刻になる前に寿命を終えられる患者が出てくる可能性もあるからだ。そうなれば、認知症患者を社会の「コスト」から「稼ぎ手」に変えることができるかもしれない。

 早期発見の技術として注目されるのが、PET(陽電子放射断層撮影装置)だ。静脈にアミロイドβと結合する機能を持った放射性医薬品を注射し、PETで頭部を撮影すると、脳内に蓄積したアミロイドβが映し出される。現在、最も高い精度で確認できる手段の一つだ。