JR九州が単なる鉄道会社にとどまらず、九州に根を張る有力企業として認識されるきっかけとなった出来事がある。2005年、鹿児島の屋久島に「JRホテル屋久島」が開業したことだ。それまで、JR九州が手掛けるホテルは九州内の駅周辺に6施設あったが、鉄道のないリゾート地などで運営した経験はなかった。

<b>屋久島でのホテル開業は沿線外への挑戦の一つ</b>
屋久島でのホテル開業は沿線外への挑戦の一つ
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 町営国民宿舎の跡地であり、大手リゾートホテルも名乗りを上げる中で、事業者として選ばれ、実績を上げたことが、その後の展開にもつながった。「当時のホテル事業の社長が島に入り込み、地元の方々と寝食を共にしたことも、地域からの信頼につながったようだ。JR九州のホテルというよりも、地元のホテルと思ってもらえるようになった」と、青柳社長は振り返る。青柳社長にとっても、鹿児島支社長時代の思い出深い事業だという。

 九州外への進出にも果敢に挑む。2014年、ホテルを東京・新宿に、今年6月には沖縄・那覇にも開業する。

 「人口の多いエリアで収益を上げる意味もあるが、外に出ていくことで学びがあり、それを九州に持ち込む」と唐池会長は話す。2002 年に外食子会社で社長を務めていた時、歌舞伎役者、3代目市川猿之助さんがプロデュースした「赤坂 うまや」を東京・赤坂に出店した。東京でブランドを確立し、その店を九州に“逆輸入”。海外展開にもつなげた。

<b>ドラッグストアを買収し、都市部や駅前への出店を加速した</b>
ドラッグストアを買収し、都市部や駅前への出店を加速した
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 やるとなれば、動きが速いのも、JR九州の特徴だろう。2007年、九州地盤の有力ドラッグストアチェーン「ドラッグイレブン」を買収した際、経営陣を5人一気に送り込み、小売店経営のノウハウを習得させた。現場主体で業務を改善する活動を取り入れるなど経営体質を強化。九州の都心部や駅構内に拡大して、200店舗体制を築いた。

 これと決めた、伸ばしたい事業には、果敢に挑むエース級の人材を、畑違いのキャリアであっても、迷わず登用した。こうした人事は、初代社長の石井幸孝氏の時代から引き継がれている。旧国鉄時代の官僚的で縦割りの組織風土が色濃く残ると言われるJR各社の中で、異色の社風だ。

 JR九州の「チャレンジ精神」を象徴するのが、農業だ。2010年から大分市でニラや甘夏の栽培を手掛け始め、熊本や宮崎でも生産を拡大。2014年7月に農業の生産販売を手掛けるJR九州ファームを設立した。九州内に農地を借り、農家に指導を仰ぎながら効率的な生産を目指している。

<b>農業事業にも本格参入</b>
農業事業にも本格参入
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 手掛ける作物を1つずつ増やし、現在は10種類以上の農作物を扱う。とれた野菜の一部は福岡市内に3店経営する「八百屋の九ちゃん」で販売する。

 福岡県飯塚市の内野(うちの)では、養鶏場を経営する。鶏卵は「うちのたまご」というブランド名で、九州内だけでなく、東京・赤坂や羽田空港内でも販売している。卵は九州内の工場でケーキなどにして、博多駅構内のお土産コーナーに並んでいる。

 農業を手掛けたきっかけは、唐池会長が車窓から休耕田となって荒れた農地を見たことだ。本業である鉄道事業とのシナジーも感じたという。「同じ作業の繰り返しでも、手間をかけ続けることが大事。それは鉄道も同じで、親和性が高い事業だ」と唐池会長は話す。

 ただし、農作物をグループ内の外食店で使うためだけに、こうした「6次産業モデル」を追求しているわけではない。大部分を農業協同組合に出荷する。「九州野菜のブランドを高めて、地元に雇用を生むことに寄与したい」とJR九州ファームの田中渉社長は話す。

 2015年度の農業事業は赤字で、現状はCSR(企業の社会的責任)にも見えるが、スピーディーに収益源へと育て上げる考えだ。「農業は人の手がかかる部分が多く、労務費もかさむ。試行錯誤の連続だが、ピーマンやニラなど、黒字化が見えてきた野菜も出てきた」と田中社長は笑顔を見せる。

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