「立地に甘えていた」

 元JR東日本副社長で、現在はルミネの社長を務める新井良亮氏は、JR東日本の生活サービス事業を、こう評価する。「顧客ニーズの広がりに応じて業態を広げてきたが、必ずしも質の向上にはつながらなかった。その結果、売り場の作り込みが不十分な例が増えた」。

JR東日本の生活サービス事業の収益力に陰りも
●駅スペース活用事業(エキュート、ニューデイズなど)
JR東日本の生活サービス事業の収益力に陰りも<br /> <span>●駅スペース活用事業(エキュート、ニューデイズなど)</span>
[画像のクリックで拡大表示]
●ショッピング・オフィス事業(ルミネ、アトレなど)
<span>●ショッピング・オフィス事業(ルミネ、アトレなど)</span>
[画像のクリックで拡大表示]

 グループの既存の施設も、苦戦が目につく。アトレは2017年3月期、既存店ベースの売上高が前の期と比べて2%弱減る見通しだ。テナントの中で構成比が高い衣料が不振だった。石司次男社長は「顧客のニーズに対応した、新たな価値を提供できなかった」と話す。

 都会の駅には自然と乗降客が集まる。やって来る乗降客を、買い物へと誘導する店舗さえ作れば、ある程度の収益を出し続けることは可能だ。JRにとっては流通は重要な多角化の柱だが、その実態は「独占事業」である鉄道を毎日同じように走らせ、安定した運賃を得てきた国鉄時代のビジネスモデルから、大きく進化したものとは言いがたい。

 JR東日本の元経営幹部は「生活サービスは、常に変化を続け新しい価値を生み出す必要がある事業。注意しておかないと、変わらないことを第一とする鉄道事業の発想がすぐに入り込んで、停滞を招いてしまう」と指摘する。

 生活サービス事業を担当する表輝幸執行役員は「立地への甘えが多分にあった」と反省する。同社は、グループの施設で買い物をしている客数は乗降客の4分の1程度と推定する。裏を返すと、駅を利用する顧客の実に4分の3を取り逃がしている計算になる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の安藤誠悟シニアアナリストは「立地の良さを考えると、現在の倍以上の収益を上げてもおかしくない」と手厳しい。

<b>東京急行電鉄は地域と街作りを進め、複合施設「二子玉川ライズ」を開業した</b>(写真=アフロ)
東京急行電鉄は地域と街作りを進め、複合施設「二子玉川ライズ」を開業した(写真=アフロ)
[画像のクリックで拡大表示]

 JR各社は地域と連携して人の流れをつくり、駅から離れた場所にいる顧客を自ら取りに行く意識は薄かった。この点では私鉄各社が先行している。例えば2015年、商業施設やオフィスから成る複合施設「二子玉川ライズ」を完成させた東京急行電鉄。1980年代から地元の再開発組合に参加し、自治体や地権者と二人三脚で開発。東急の二子玉川駅周辺住民にとどまらず、広い地域の人に交流の場を提供し、にぎわいを作り出した。

 売上高に占める運輸事業の割合を見ると、JR東日本、東海旅客鉄道(JR東海)、西日本旅客鉄道(JR西日本)の3社が64~77%と高い。パート2でみるように、JRでは最も多角化を進めてきた九州旅客鉄道(JR九州)でも4割はある。それに対して東急は17.5%、阪急阪神ホールディングスが32.1%と低い。私鉄が歴史的に鉄道以外の事業を育ててきた結果であり、民営化後の30年、「前例踏襲」で鉄道に依存した経営を続けてきたJRとの差は大きい。

私鉄は鉄道事業への依存度が低い
●JR旅客6社と私鉄の、運輸事業の売上構成比
私鉄は鉄道事業への依存度が低い<br /> <span>●JR旅客6社と私鉄の、運輸事業の売上構成比</span>
注:売上高に占める割合。2016年3月期の連結実績
[画像のクリックで拡大表示]

 予想PER(株価収益率)も近鉄グループホールディングスの28倍に対してJR東日本は15倍と、株式市場での成長力への期待は私鉄の方が高い。

 「自分たちの土地をどう活用しようと勝手だ。なぜいちいちあなたたちに言う必要があるのか」。首都圏のJR主要駅近くにある商店街組合の幹部は、JR東日本の担当者の開き直ったような言葉に、怒りがこみ上げてきた。

 この駅では、JR東日本が複数の出口に次々と商業施設を建てた。客を奪われ、商店街は衰退。JRは追い打ちをかけるように、改札内に「駅ナカ施設」を作ることを決めた。計画を知らなかった商店街幹部は慌てて事情を聞きに行ったところ、先の発言が飛び出した。

 「立地の良さから、テナントとして入りたいという声の多さにあぐらをかいているのではないか。周辺地域への思いやりがみじんも感じられない」と商店街幹部は憤る。「独占企業」だった国鉄時代そのままの、官僚的で傲慢な振る舞いが残るうちは、地域を巻き込んだ、ビジネスの創出などできないだろう。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2145文字 / 全文文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「特集 JR 思考停止経営からの決別」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。