外来優先が障害に

 現在の診療報酬制度では、遠隔診療の場合、原則として再診料と処方箋料しか報酬に算定されない。そのため、外来診療と比べ、医療機関の収入が下がることになり、導入のインセンティブが働きづらい仕組みになっている。

 そんな問題点を、豊田が経産省産業再生課の担当者に話したのは昨秋のことだった。それからわずか数カ月で事態が大きく動くことになる。

 「遠隔医療を進め、質の高い医療を実現する」

 昨年11月、官邸で開かれた首相直轄の「未来投資会議」。安倍晋三はこの場で、遠隔医療の推進に取り組むことを明言し、診療報酬など制度改革に踏み込んで対応するよう、厚生労働省に指示を出した。

 PROLOGUEで示したように、内閣官房を含む各省庁には経産省の官僚たちが根を張っている。さらに、未来投資会議の民間議員の一部は、次世代の産業振興策を議論する経産省の「新産業構造部会」の委員も兼務。経産省発の政策が短期間に一気通貫で安倍まで上がるメカニズムが出来上がっている。

 遠隔診療普及の壁を取り払おうという動きが素早いのは、安倍の近いところに経産省がいるからばかりではない。

 経産省の担当者の面々はメドレーのようなベンチャー企業や医療機関に対して、繰り返しヒアリングを実施。遠隔診療に消極的なプレーヤーにその有用性を説いた。

 例えば、サラリーマンの受診者が多い禁煙外来は仕事の都合などで病院から足が遠のいてしまうケースが多い。だが、どこからでもつながる遠隔診療を活用すれば、受診継続率が飛躍的に上がる。つまり医療機関の実入りが増えるメリットを強調したのだ。

 所管する業界から反対の声が上がらなければ、監督官庁も動きやすい。「経産省に言われたから動くのではなく、我々も内部で遠隔診療について検討してきた」。厚労省幹部はこう強調しながらも、制度改正に前向きに取り組んでいることをほのめかす。

 世界の趨勢から遅れている民泊などシェアリングエコノミーへの対応について、経産大臣の世耕弘成はこう話す。

 「カーシェアリングの突破口はドライバー。車が空いている時に使ってもらえば結構お金が稼げるということが、まだ理解できてない。でもこれがだんだん広がっていけば、意外と攻めていけるんじゃないか」

 世耕が働き方改革に力を入れるのも実は同じ理由からだ。長時間労働、非正規・正規間の賃金格差の是正は重要なテーマだが、狙いはそれだけではない。副業やフリーランスといった柔軟な労働形態が生まれれば、シェアリングエコノミーのメリットを享受できる層が広がると考えている。

 高圧的に押し付けるのではなく、水面下で相手に入り込み、敵を味方に変えていく。新・経産官僚が持つべきはそんな、したたかさだ。