「日本ではあまりにも業界の抵抗が強くて、シェアリングエコノミーの革命は気配すら見えない。特にカーシェアリングは全く進まない状況で、大きな課題。空港に着いて『Uber(ウーバー)』で(ライドシェアカーを)呼べないのは日本だけ」。経済産業大臣の世耕弘成は、本誌にこう憂いた。

 世界では共有型経済を掲げるシェアリングエコノミーが新産業として勃興。経済や政治に及ぼす影響力が増している。だが、日本は周回遅れ。世耕も認める後進国ぶりだ。

一般人がヒトを運ぶことで巨大産業となったライドシェア。米ウーバーはモノや食事の運送にまで手を出す(写真=Bloomberg/Getty Images)

 新経済の主役は米ウーバーテクノロジーズ。世界70カ国以上に展開し、乗客が支払った総売上高は昨年上期だけで約88億ドル(約9900億円)にも達する。昨年5月、トヨタ自動車がウーバーのドライバー向け車両リース事業で出資・提携し、独ダイムラーやスウェーデンのボルボも自動運転分野で提携するなど、世界の大手自動車メーカーも無視できない存在となった。

 だが日本では規制が厚く、ライドシェアは実現できていない。ウーバーの日本法人、ウーバージャパン社長の高橋正巳は「シェアリングエコノミーのサービスは、世界中の消費者からその利便性が高く評価され、海外ではデファクトスタンダードとなっている」と言外に悔しさをにじませる。このままでは2020年の東京五輪・パラリンピックで、ライドシェアに慣れた訪日外国人を失望させる可能性もある。

国交省・タクシー業界が抗戦

 2015年10月に開催された国家戦略特区諮問会議で首相の安倍晋三が「過疎地等での観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する」と発言。ライドシェア解禁か、とざわついたが、タクシー業界の徹底抗戦に遭い、解禁への道のりは遠い。ウーバージャパンは京都府京丹後市などの過疎地で限定的なライドシェア営業のシステムを提供をするにとどまり、苦戦している。

 今年に入ってようやく規制改革推進会議が全国的な解禁に向けた議論を始めたが、即座に国土交通大臣の石井啓一が「(ライドシェアは)安全確保や利用者保護などに問題があり、極めて慎重な検討が必要だ」と呼応。既得権益を守ろうとする勢力を擁護した。

 米国にはもう1社、シェアリングエコノミーが生んだ巨人がいる。自宅を他人に貸すホームシェアリング、いわゆる「民泊」大手のAirbnb(エアビーアンドビー)だ。

 エアビーが民家などへ送った宿泊者数は2008年の創業以来、1億5000万人を超えた。紹介する宿泊物件数は世界191カ国に300万件以上。昨夏のリオデジャネイロ五輪ではエアビーが公式サプライヤーとなり、大会中に8万5000人が宿泊、家を貸したホストの収入は3000万ドル(約34億円)、宿泊者の増加などによる全体の経済効果は約1億ドル(113億円)あったという。

 だが、これも日本では規制に阻まれ、まともな営業活動ができていない。

日本では届け出のない「闇民泊」が急増している。写真は外国人に人気という大阪府内の物件(写真=山田 哲也)

 エアビーに掲載されている都内の物件数は1万7000超、大阪府内は1万2000超あるが、その多くが旅館業法の規定違反と見られる。自治体職員が違反物件の調査などに乗り出しているが、捜査や差し止めなどの強制力はなく、放置されているのが現状だ。

 2013年、国家戦略特区諮問会議は、特区で民泊を解禁する方針を示し、昨年から一部自治体では、旅館業法が定めるフロントの設置や、一部の提出書類を省いても民泊として営業可能となった。次いで、全国的な解禁に向けた作業も観光庁を中心に進んでおり、今国会中にも新法の法案が提出される見込み。年間上限180日以内であれば、自宅を他人に貸せるようにする。

 しかし、これも妥協の産物で、世界標準には程遠い。

 「ロンドンやパリなど世界の多くの都市では、年間上限までは無届け・無許可で営業可能。日本は特区同様、登録や周辺住民への説明が必須、という法案になりそう。だが、それでは一般人ホストにとって壁が高く、例えば70歳のおばあちゃんが亡くなった旦那の寝室を貸せるような制度ではない」。エアビー関係者はこう漏らす。

 新法では、行政庁への登録義務化に加え、貸すホストは玄関などに名前などを書いた「標識」の掲示も義務付けるもようだが、「一人暮らしの女性などは危険に感じ、登録を断念せざるを得ない」(同)との声もある。ホストにとって不便・不安という点で、民泊を後退させるような法案なのだ。

「経産省が出たら、進まない」

 お気づきだろうが、ここまで経産省の名は出てこない。経産大臣が「世界から取り残される」と憂いているのに、経産官僚は事実上、打開に向けた行動ができていないのが現状だ。

 唯一の実績は、シェアリングエコノミー協会という社団法人を監督し、今年1月、同協会と連携する形で内閣官房傘下のIT総合戦略室内に「シェアリングエコノミー促進室」を設置したこと。しかし、これは「名ばかり」である。

 同協会にはウーバーやエアビーも名を連ねるが「名前貸しにすぎない。実態は補助金目当ての国内ベンチャーの寄り合い所帯」(協会関係者)。推進室は規制緩和や新法を推進するわけではなく、単なる相談窓口にとどまる。

 本来であれば、大臣の意をくみ、既存勢力と戦いながら新産業の興隆に手を貸すのが経産官僚のあるべき姿なのではないか。そう詰め寄ると、経産省幹部はこう抗弁した。

 「経産省がやると出ていけば、他省庁は頑なになるんですよ。例えば経産省が『民泊研究会』を作ってやるといったら、もう絶対に進まない。経産省がダイレクトに行って物事が遅くなるなら、行かないほうがいい。僕らは目的を達成すればいいんです」。つまり、「攻めて遅れるなら、攻めない」という論理。だが、それでいいのだろうか。

トランプ米大統領が火種にする可能性も
●米インターネット・アソシエーションの声明文
グーグルなどが加盟する米最大のIT業界団体、インターネット・アソシエーションは近く、日本のシェアリングエコノミー政策を痛烈に批判する声明文を出す。写真は本誌が入手した草稿

 米グーグルやフェイスブックなどが加盟する米最大のIT業界団体、米インターネット・アソシエーションは近く、声明文を出す。民泊新法の法案など、日本のシェアリングエコノミー政策を痛烈に批判する内容だ。

 本誌が入手した民泊新法の法案には、エアビーのような民泊仲介業者にも観光庁への登録を義務付け、登録のない違法な物件があった際は業務停止命令や仲介業者の登録抹消といった処分を下す、という旨がある。

 前述の通り、新法の内容は一般人のホストにとってハードルが高く、国内物件の多くが届け出のない違法状態の今と何ら変わらない可能性がある。となれば、エアビーは数万件ある違法物件の多くを削除せざるを得ない状況に追い込まれる可能性がある。

新産業後押しの気配弱し
●シェアリングエコノミーの関連省庁と関係図

「矛盾をはらんだ動き」と批判

 米国の業界団体は、こうした日本政府の対応を自由競争を阻害する参入障壁と捉え、憤っている。本誌が入手した声明文の草稿にはこうある。

 「日本政府の方針には、登録事業者に厳しい義務を課すことによって、日本国内、そして他国でホームシェアのプラットフォームの運営を目指す事業者を排除する可能性が含まれている。これは競争と消費者の選択を大幅に制限するばかりか、イノベーションの妨げとなる」「政府がシェアリングエコノミーを支援すると表明しつつ、同時に事業者の自発的な抑制を検討するという矛盾をはらんだ動きだ」

 この話とは別に、「民泊新法の内容が、外資の自由参入を認める世界貿易機関(WTO)協定違反の疑いがあるとして、既に米大使館などが動いている」(業界関係者)という話もある。今後本格化する日米貿易交渉で米大統領のトランプなどから攻撃を受けるかもしれない。

 国際問題になりかねない罠が隠されている民泊新法。矢面に立たされ、尻ぬぐいするのは直接、法案作成に携わっていない経産省である。

 「シェアリングエコノミー政策の中心に経産省がいないことに違和感を覚える。ITで世界最先端を目指すのであれば、立ち上がってほしい」

 シェアリングエコノミー業界は、そう経産省の介入を待望している。