安倍首相の宣言を受けて、自民党が大学など高等教育の無償化検討を始めた。資本主義の負の側面として、先進各国を悩ます格差。固定化を防ぐことはできるのか。

 「誰もが希望すれば高校にも専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければならない」

 安倍晋三首相は1月20日、施政方針演説でこう宣言した。大学など高等教育の無償化を視野に入れたもので、自民党は大学などの教育に関する財政支援に必要な財源を確保するため「教育国債」の議論を始める。

日本の大学への投資はOECDで最低水準
●高等教育機関への公的支出と時間当たり労働生産性
日本の大学への投資はOECDで最低水準<br /> <span>●高等教育機関への公的支出と時間当たり労働生産性</span>

 日本の教育への公的支出は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも低い水準だ。特に高等教育機関に対する公的支出のGDP(国内総生産)比は、加盟国で最低だ。すでに大学授業料が無償の国は欧州には多く、日本との違いは際立つ。

 それを補ってきたのは、家庭における教育投資だが、景気停滞が長引く中で、その構図は限界に近づきつつある。

 子供が生まれて大学まで進学した場合、すべて公立だったとしても1000万円かかるとされる。有名塾に頼ったり、私立や理系の道を選んだりすれば、さらに膨れ上がる。先行きが不透明な今、子供の教育費用は若い世代にとって大きな経済リスクとなっており、少子化の一因ともなってきた。

 生まれた環境で、教育水準に大きな差が出ることは、今は当たり前の現実だ。貧しい家庭に生まれても、よい教育を受ければ、子供の世代は豊かな生活ができる──。こんな素朴な考えを信じる人は少なくなっているようだ。

 最近、国会でも取り上げられた、生活保護家庭のケースは象徴的だ。文部科学省の学校基本調査によれば、全世帯の大学進学率は51.8%。それに対して、生活保護世帯では20.0%(厚生労働省調べ)にとどまる。高校進学率はそれぞれ同98.8%と同92.8%であるのに比べて極端な差がある。

 現在の生活保護制度は、高校を出て健康なら働いて家計にお金を入れることで保護費の支給を減らすべきだという考え方をとっている。

 もちろん、奨学金を借り入れて、大学に通うことはできる。だが、生活保護を受けている親から見れば、子供が大学に進学すれば、世帯分離で子供分の受給額が減ることになり生活は苦しくなる。親への負担が増えることを躊躇して、大学進学を断念する子供が少なくないという。生活保護世帯が増える中、放置できない矛盾だ。

 政府が検討する高等教育の無償化が本当に実現すれば、より多くの人が高等教育を受けられるチャンスを得られることは間違いない。貧困の再生産を防ぎ格差の固定化を解消することに反対する人は少ないだろう。

 もっとも、国が高等教育にかかる費用すべてを負担した場合、年間5兆円かかるとの試算がある。国債には将来世代への借金つけ回しという側面もあり、財政規律を重視する財務省の反応が焦点となりそうだ。

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