人材流動化を企業が進めるのは、プロパー社員に知識や語学力がないからだけではない。ここへきて急増する「創造性の高い仕事」に対応するセンスを持つ人材が少ないからだ。「定型的な仕事」向きの人材ばかりを長年集めてきた弊害が、企業と個人に押し寄せている。

ダメなのは努力不足だけではない
●生え抜き社員の弱体化に関する誤解と真実
(イラスト=伊野 孝行)
(イラスト=伊野 孝行)
「マクドナルド化する社会」
「マクドナルド化する社会」
マクドナルド型の仕事が増えることに警鐘を鳴らした。「マックジョブ」は米国社会全体に普及し、辞書に掲載されるほど有名になった。(写真=スタジオキャスパー)

 「独創性に富んだ社員が育たない」「幹部候補が成果を上げられない」「多くの社員が成長せず、そもそも後任候補すらいない」──。

 社員に関する悩みを今、大企業の経営層に聞くと、多くが真っ先に口にするのが「ミドルクラスの弱体化」だ。中には、「経営環境の変化は分かるが、それにしても一流大卒業者の中からそれなりに厳選して採用したはずの生え抜きミドルが、なぜこうも伸び悩むのか」と疑問の声を上げる経営者もいる。

 中高年社員の弱体化の要因としては以下のような指摘が一般的だ。

①ITの高度化やAIの台頭に対応する専門知識がない
②グローバル化の流れに適応する語学力がない
③努力不足、バブル以降の世代に特有の精神力の欠如

 だが本誌は、人材育成に詳しい専門家への取材から、より説得力のある、もう一つの仮説にたどり着いた。それは、「多くの企業がプロパー社員だけでは戦えないと考えるようになったのは、ITの知識や英語力がないからではなく、企業における仕事の本質が根本的に変化したから」(人材流動化に詳しいリブ・コンサルティングの関厳社長)というものだ。その変化を一言で言えば、次のようになる。

 「マックジョブ」が減り、「クリエーティブジョブ」が増えた──。

普及した不名誉な造語

 マックジョブとは文字通り、「マクドナルドのような仕事」を指す造語で、米国などでは「低賃金で必要な技術レベルが低く将来性のない仕事」というネガティブな意味で使われる。

 1986年8月に米ワシントン・ポスト紙が初めて見出しとして起用。93年に米社会学者ジョージ・リッツァ氏がマックジョブの増加に警鐘を鳴らす著書「マクドナルド化する社会」を出版すると、米国社会全体に普及し、辞書に掲載されるほど知られるようになった。自社の名前を使った不名誉な造語に米マクドナルド社は反発。各出版社に削除を要請する事態にまで発展している。

 本特集では有識者への取材から、マクドナルドの業務内容とは一切関係なく、あくまで一般用語として、マックジョブを「答えを導くための方法論がわかっている、多くの人ができる定型的な仕事」と定義したい。そうすれば、小売業や製造業などだけでなく、どんな仕事にも“マックジョブ的仕事”は含まれると言える。「というより、一見するとクリエーティブに見える企業でも、20年前までは定型的な仕事が大半だった」。中高年の人材育成に詳しい経営コンサルタント、木村勝氏はこう指摘する。

 例えば家電の開発。2000年ごろまでの家電の開発現場は、「よりハイスペックな製品をより低コストで作る」という正解に近い答えがあり、その方法論も「冷蔵庫であれば容量が大きく消費電力が小さいもの、洗濯機なら洗濯時間が短いもの」とほぼ明確だった。

 「もちろん容量を大きくし省電力化する上で試行錯誤は必要だが、“世の中にないもの”を作る創造性を強く要求されていたわけではない」(木村氏)

 いかにもクリエーティブに見える、例えばデザイナーなどの仕事も一昔前までは、デザイン工学や色彩学で決まっている「人目を引くデザインのパターン」を根気よく組み合わせていくのが仕事の中心。家電同様、創造性を発揮してこの世にないデザインを描けと求められているわけではなかった。

「クリエーティブっぽい仕事」も、本当にクリエーティブになった
●デザイナーの仕事の移り変わり
「クリエーティブっぽい仕事」も、本当にクリエーティブになった<br /> <span>●デザイナーの仕事の移り変わり</span>
(イラスト=伊野 孝行)
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 企業社会が始まって以来、人事や総務、経理などだけでなく現業部門も含め会社の仕事は実は、一定の知識と管理能力、経験を持つ人材なら“誰でもできる”マックジョブ的業務──。そのことをはっきり示したのが米グーグルシニアバイスプレジデントのダイアン・グリーン氏で、ホワイトカラーの仕事のうち創造的な業務に割かれている時間は以前から全体の5%と指摘した(17年6月14日、都内での講演)。

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