中途半端な値段変更が意味を成さないのは、安値を設定する局面でも変わらない。とりわけ成熟市場や寡占市場で新たにシェアを拡大するには、極限の低価格が欠かせない。そのためには最新技術と知恵を総動員し、コスト破壊どころかコストを粉砕することが必要だ。

駐車場運営大手のパーク24が快走を続けている。2016年10月期は駐車場・カーシェアとも拠点数増加と稼働率の向上で売上高が前期比8.2%増の約1944億円、営業利益が同14.5%増の約214億円。今期も増収増益を見込んでいる。
運営する駐車場は全国53万1135台分。カーシェア事業の国内市場占有率は約71%(会員数ベース)というガリバー企業だ。
そんな巨象に局地的ながら互角に渡り合っている無名の中小企業が名古屋にある。創業2002年の新興企業、シード(名古屋市、吉川幸孝社長)だ。名古屋市西区を中心に、駐車場運営を検討している土地オーナーを、パーク24をはじめとする大手と奪い合い、口説き落とすことに続々成功。現在600台分を管理する。
「理屈抜きで圧倒的に安い」
なぜオーナーたちは、シードをあえて土地活用のパートナーに選ぶのか。「理屈抜きで圧倒的に初期投資が安いから」。つい最近、運用先をシードに決めた名古屋市内の駐車場オーナーはこう打ち明ける。


このオーナーによると、大手チェーンと組み駐車場を1カ所運営するには300万円ほどの初期投資が掛かる。それに対し、シードは5万円で済む(同規模の駐車場を運営する場合)。なぜここまで安いかと言えば、大手チェーンのように駐車スペースごとに不正駐車を防止する駐車板を設置したり、入り口に精算機を置いたりしないからだ。
駐車場オーナーが5万円払ってシードと契約すると、送信機が内蔵されたパイロンがスペース分だけ配られる。後はそれを各駐車スペースに置いておくだけで、大掛かりな工事は一切必要ない。
駐車場を利用したい人はパイロンをどかし駐車した後、スマートフォンの専用アプリで駐車開始の旨を本部に連絡。出庫する際は同様の方法で駐車完了を報告する。駐車時間に合わせてあらかじめ登録されたクレジットカードから料金が引かれ、オーナーに振り込まれる。勝手にパイロンを動かし無料で駐車される可能性もゼロではないが、実際に不正利用されることはほとんどないという。
「そりゃ大手チェーンの方が信用力はあるし、シードの場合、不正駐車される心配もある。また初期費用は安くても売り上げは本部と折半しないといけない。だから初期投資が1~2割安い程度なら大手を選んだと思う。だけど、何しろ60分の1だからね。ここまで常軌を逸した安さだと誰でもこっちを選ぶでしょ」。前出のオーナーはこう話す。
シードは吉川社長の父、吉川明宏氏がトップを務めるスペース24(名古屋市)の新規事業としてスタートした。スペース24の本業も駐車場管理だったが、初期費用300万円の大手と同じビジネスモデル。2000年代以降は競争激化により思うように駐車スペースを確保できなくなる。そこで考えたのが、より低価格な管理ビジネスだった。
だがここで、事業開発を任された吉川社長は「ちょっとやそっとの安さなら、パーク24の営業力に到底太刀打ちできない」と判断する。
数百人の営業マンが全国各地に散らばり、駐車場に適した空き地の情報を足で集め、時には地域の祭りまで手伝い地域に食い込み、オーナーを口説き落とす。「そんな相手に価格戦略で対抗するためには、周囲が腰を抜かすほどの低価格初期費用を設定するしかない。少なくても半値。できればゼロ」──。これが吉川社長の結論だった。
こうしてスマートフォンアプリを活用し、駐車板も精算機も不要のシステムが完成していく。「とんでもない安値を打ち出すには従来の延長上でモノを考えていては不可能。最初からコストを極端に下げようと決めたからこそ生まれたシステム。今後は全国展開にも力を入れる」。吉川社長はこう話す。
成熟が進む日本市場。ほとんどの有望産業では序列が固まり、1社だけで市場の50~70%を占める寡占市場も増えている。こうした分野で下位企業が逆襲する数少ない方法が、前代未聞の極端な安値を打ち出し、顧客を力技で奪い取ることだ。
幸いにも今は、AI(人工知能)などテクノロジーが急速に進化を始めており、様々な分野で、一昔前までは考えられなかったコストダウンが実現できる可能性がある。コンサルティング業界もその一つだ。


従来の100分の1の価格で、WEBサイトの分析と改善の提案をします──。こんな戦略で顧客を急増させているコンサルティング会社がある。2010年創業のWACUL(ワカル・東京都千代田区、大津裕史社長)だ。当初は1案件当たり400万円を成果報酬方式で受け取っていたが、2015年5月からは、4万円をコンサルティング料として月々徴収する形に変えた(料金はWEBサイトの規模で若干異なる)。
AI活用で価格を100分の1に
劇的な価格引き下げが可能になったのは、AIを徹底活用するようにしたからだ。それまでは人手と時間を掛け、ユーザーがWEBサイト内の各ページをどのような順番で閲覧しているのかなどを把握していた。大手EC(電子商取引)サイトなどでは回遊パターンは20万~100万通りになり、平均して1つのサイトを分析・支援するのに1カ月から1カ月半の時間が必要だった。
「その点、AIなら回遊パターンの分析一つとっても、以前は5~10日間掛かっていたところを10分でできるようになった」。同社COO(最高執行責任者)の大淵亮平氏はこう説明する。
寡占市場であっても、テクノロジーをフル活用し、コスト破壊ならぬコスト粉砕をすれば、活路は開ける。
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