日本製紙は4月から大量生産

 製紙産業が盛んな北米や北欧でもCNFの研究が進んでいるが、「日本の企業や研究機関が先行している」(経済産業省素材産業課)。同課によると、2011年までのCNF関連の特許出願件数のうち、約57%を日本勢が保有している。最多の出願者は日本製紙。同社は4月にも、年産500トンという世界最大級のCNF工場を宮城県で稼働させる。おむつの消臭シートなどに加工して販売する。

 CNFが開く未来に他産業も乗り遅れまいとしている。2015年には第一工業製薬と三菱鉛筆が、インクにCNFを使ったかすれにくいボールペンを発売。世界初のCNF実用化事例となった。デンソーは京都大学などとCNFを車体へ応用するための研究を開始した。凸版印刷は花王や日本製紙と組んで、包装材を共同開発。カップ麺容器などのサンプル出荷を近く始める。

 目下の課題は生産コストだ。現時点では1kg当たり4000~1万円。経産省は2030年に同500円まで引き下げ、1兆円の市場を創出する目標を掲げる。

 電球が白熱灯からLED(発光ダイオード)に、テレビがブラウン管から液晶、そして有機ELに移り変わっていくように、新素材は産業構造を根底から覆し、活力をもたらす。CNFも同様だ。林業の復興や地域経済の活性化につながるだけではない。開発競争で世界に先駆けられれば、新たな輸出産業を日本国内に生み出せる。幸いなことに原材料は文字通り「腐るほど」ある。

 IT(情報技術)活用やデジタル化で海外の後塵を拝し、イノベーション不足が叫ばれる日本。だが元素を軸に材料や素材に目を転じれば、CNFを筆頭に世界を一変させる技術の種が数多く発見できる。

 その好例が、触媒を用いて植物の光合成を再現する「人工光合成」。太陽光エネルギーを使って二酸化炭素を分解し、酸素と水と有機物を作り出す。

 産官学でつくる「人工光合成化学プロセス技術研究組合」は昨年、世界最高レベルの3%のエネルギー変換効率を達成した。同組合のプロジェクトリーダーである三菱化学執行役員の瀬戸山亨フェローは、「2021年度に10%まで高めたい」と話す。背景にあるのは、40年以上にわたる触媒研究の蓄積だ。1972年に当時まだ大学院生だった藤嶋昭氏(現:東京理科大学学長)らが、酸化チタン電極に太陽光を当てて水を水素と酸素に分解できる「ホンダ・フジシマ効果」を発表。ノーベル賞受賞も期待されているこの研究が、人工光合成研究の礎となった。

 ありふれた元素を組み合わせて全く新しい材料を生み出す技術も、日本が得意とする領域だ。理化学研究所が合成に成功し、昨年「ニホニウム」と名付けられた元素だけではない(「周期表で見る元素の今」参照)。我々の生活に直結する製品分野でも、長年培った基礎研究をベースにした新発見が相次いでいる。

 東京工業大学の元素戦略研究センターは昨年6月、大量の実験データを人工知能などで解析して新素材の最適組成を設計する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」を利用。赤色発光する新たな窒化物半導体を開発したと発表した。LED(発光ダイオード)電球の低コスト化や、ディスプレーの色表現の拡大につながる新素材という。

 従来はインジウムやガリウムなどのレアメタルが必要だったが、カルシウム、亜鉛、窒素というありふれた元素のみで実現化した。過去の実験結果を基に膨大な組み合わせをシミュレーションすることで、人間の頭では想定すらできなかった成果を生み出した。

元素トリビア 7
(写真=sdlgzps/Getty Images)
究極の「薄利多売」元素

スーパーで水を買うより安い。この殺し文句が、鉄が最も広く使われる金属であり続けている理由だ。廉価と用途の広さゆえに、正字体の「鐵」は「金(属)の王なる哉」が由来との説もある。この「安売り品」に様々な付加価値をつけてきたことで日本の鉄鋼産業は成長してきた。