元素を調達できないと嘆いているだけでは、日本は資源弱国から脱却できない。カギを握るのは、ありふれた元素から夢の新素材を作り出す技術だ。そんな「錬金術」が日本の裏山を金脈に変えようとしている。

中越パルプ工業は、薩摩川内市で育つ竹を原料に、新素材「セルロースナノファイバー(CNF)」を生産する(写真=浦川 祐史)
CNFは川上・川下双方の産業を変革する
●CNFの生産工程と主な関連企業
(写真=浦川 祐史)

 「人様にけがさせやしないか、電線を切ったりしないかって不安でねえ」。鹿児島県薩摩川内市の是枝富美子さん(79歳)は毎日、所有する山の竹林を見て回る。伸び放題の竹は道路に向かって大きくしなっている。

 鹿児島県は日本で最も竹林面積が広い。特に薩摩川内市は早掘りタケノコが名産だが、管理する農家の高齢化により、9割が放置竹林となっている。繁殖力の強い竹は、杉やヒノキの林を侵食し、育成を阻害する。こうした生態系を壊す「竹害」が悩みの種だ。そこで、この繁殖能力を逆手にとり、「夢の素材」を大量生産する試みが始まった。

 薩摩川内市は市内に工場を持つ中越パルプ工業と連携し、竹を原料に「セルロースナノファイバー(CNF)」の生産に乗り出す。CNFは紙の原料であるパルプを、ナノメートル(ナノは10億分の1)単位まで細かく解きほぐして作る。「ポスト炭素繊維」とも言われる新素材だ。6月には年間生産能力100トンの専用ラインが完成する。

 最も身近な元素の一つである炭素を使いこなし、付加価値を高めるのは日本のお家芸。炭素繊維の生産シェアで、日本勢が約6割を占めているのは有名な話だ。ずぬけた強度と熱・電気の伝導率を誇るナノ炭素材料も、主に日本で発見または存在が予測された。大阪ガスが極薄の炭素膜「グラフェン」の製造コストを半減させるなど、実用化の面でも世界をリードしている。

 錬金術ならぬ、練「炭素」術の中でも、CNFが次世代素材の最右翼とされる理由は2つある。まず、用途の広さだ。

 CNFを樹脂と混ぜて固めれば鉄の5倍の強度、5分の1の軽さという高性能プラスチックに変わる。透明にもなる特性はディスプレー用途に、酸素を遮断する能力は包装材として期待がかかる。圧力をかけると瞬間的に流動性が高まる性質を生かせば、特殊な増粘剤にもなる。例えばゲル状のCNF混合物をスプレーで噴霧したり、塗料に混ぜて液だれを防いだりできる。植物由来の素材なので食品にも添加できる。

 もう一つの理由は産業構造を川上から変えていく潜在力だ。CNFの原料は、光合成により作られるセルロース。化石燃料を加工して製造する炭素繊維と違い、理論上は植物ならどんなものでも原料にできるのだ。

 薩摩川内市の竹は、1kg当たり10円で中越パルプと提携するチップ工場が買い取る。トラック1台分で6000円程度の収入になる。これまでも紙や繊維の材料として同額で竹を買い取る制度はあったが、うち25%が市の補助金だった。

 竹がCNFという高付加価値品に化けるとなれば「補助金が不要になり、さらに買い取り額を2円ほど増やせるかもしれない。農家によっては、竹の販売で生計が成り立つようになるだろう」(同市竹バイオマス産業都市協議会)と期待が広がる。竹だけではない。愛媛県では、ジュース製造後の柑橘類の搾りかすを使って、CNFを作る取り組みが始まっている。

元素トリビア 6
(写真=Jeffrey Hamilton/Getty Images)
生命の源は狂わぬ時計

硬いダイヤモンドと軟らかい黒鉛など様々な性質に変化し、重さの異なる3種の原子が天然に存在する。千変万化の特徴を持つ機能性素材の主役だ。遺跡の出土品や美術品の年代を鑑定する「時計」にもなる。生物に含まれる放射性炭素が死後一定速度で減少するため、有機物の年代測定ができるのだ。