今年1月4日、米テスラモーターズとパナソニックが共同運営する「ギガファクトリー」(米ネバダ州)で、リチウムイオン電池の量産が始まった。年間生産能力は35ギガワット時(ギガは10億)と世界最大級である。テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は「EV(電気自動車)を安く提供するのにギガファクトリーは欠かせない」と語った。

 そのギガファクトリーへの材料供給で重要な役割を担っているのが、非鉄大手の住友金属鉱山だ。同社は国内で唯一の電解ニッケル工場を持つ。EV用リチウムイオン電池だけでなく、HV用電池でもニッケルは不可欠な元素だ。

 Part1で見たように、フィリピンの政権交代によりニッケルの供給懸念が高まっている。同国の環境規制次第では調達が滞る恐れすらあり、価格はリスクを織り込んで高騰している。だが、住友鉱山のフィリピンでのニッケル生産は影響を受けていない。かねて環境管理や地域貢献などに力を入れてきたからだ。安定供給の強みをテコに自動車各社との関係を強化している。

中国に寝返った資源メジャー

 起源は14年前の「ニッケルショック」にある。

 中国が高度経済成長期に入り、世界中から鉱物資源を買いあさっていた2003年。住友鉱山は突然の経営危機に直面した。30年も取引関係にあった資源メジャーが、唐突にニッケル鉱石の供給停止を通告してきたのだ。ステンレス生産を急増させていた中国企業を優先し、長年のパートナーを袖にしたわけだ。住友鉱山は他のルートからの調達で穴を埋めきれず、国内工場では、ニッケルの減産に追い込まれた。

 このショックから、住友鉱山はビジネスモデルを大きく転換した。「ニッケル鉱石を買い付けるのではなく、海外で資源を獲得することにした」(家守伸正会長)。ただし、資源メジャーと真っ向から勝負しても、経営規模に劣る住友鉱山に勝ち目はない。

 そこで同社は、「HPAL」という技術を生かす戦略に出る。硫酸などを用いてニッケルの含有率を高めるHPALについては、既に原理は知られていたが安定操業が難しく、大規模設備で実用化されていなかった。同社は国内でニッケル精錬を続けてきたノウハウを生かし、実用化のめどをつけた。

 勝負の舞台として選んだのは、フィリピン南西部のパラワン島。同地では既に地元の鉱山会社によってニッケル含有率が高い鉱石は掘り尽くされ、含有率の低いニッケル鉱石しか残っていなかった。住友鉱山はそうした“捨てられた鉱山”に着目し、隣接地に製錬所を建設した。HPALを使って、ニッケル含有率を1%程度から55%程度まで高め、鉱山をよみがえらせたのだ。

 フィリピン南東部のミンダナオ島でも2013年にHPALの製錬所を建設し、2つの拠点を合わせた生産体制は6万トンにまで拡大。自社調達比率は7割に達し、資源メジャーの都合に振り回されない経営基盤を確立した。

 テスラが新工場の生命線となる材料のサプライヤーとして住友鉱山を選んだのは、まさにこの調達能力を評価したからだ。「プリウス」用電池で住友鉱山製の材料を大量に使うトヨタ自動車も、株式の持ち合いなどを通じて連携強化に余念がない。住友鉱山も電池材料の研究所を工場に隣接させ、顧客からの細かな要望を迅速に生産ラインに反映できる体制を築いた。

 資源メジャーに比べて規模の小さな日本企業が、資源獲得で主導権を握るのは難しい。だが、突出した技術があればそんな常識を覆せる。住友鉱山の事例は、それを端的に示している。

住友鉱山がエコカーの命運を握る
●ニッケルの採掘からエコカーの生産まで
(写真=上2点:住友金属鉱山)