ニッケルを待つ2つのシナリオ
鉱山開発反対派と、汚染や搾取を否定する鉱山会社。長く続いてきた対立に新たな火種を投じたドゥテルテ政権の狙いは何なのか。環境問題の解決と額面通りに受け取らず「インドネシアに続く自国優先主義のドミノだ」(総合商社)と考える見方は根強い。
まず不透明な監査体制。「DENRは何が違反に当たるのか具体的に指摘してこない」(ベンゲットのアッティ・リナ・フェルナンデス上級副社長)。多くの鉱山会社には、今年1月になっても最終的な改善指示は届いていない。
ロペス氏の右腕として監査チームを率いたレオ・ハサレノ氏はDENR傘下組織のトップを長年務めていた。ある環境関連NGO(非政府組織)の研究員は「ハサレノ氏はこれまで『汚染物質が基準超過してもわずかなら問題ない』と主張してきた。厳密に監査が行われたか疑わしい」と話す。
中国の景気減速によりニッケル需要が落ち込んでいたことも、疑念の根拠になっている。2016年2月には1トン当たり8000ドルを割り込み、13年ぶりの安値となっていた。
資源を持つ国がなりふり構わない自国優先主義に走ると、需給の原理を無視して価格を操作できる。こうした動きに対応できなければ、ニッケルを求める日本企業には2つのリスクシナリオが待ち受けている。
一つは、ミンダナオ島などフィリピン南部の鉱山集積地帯で、雨期により停止していた操業を再開する時期が3月に迫っていることだ。その産出量はサンタクルスを大きく上回る。もし3月にかけて操業停止命令が出れば、昨年以上の価格高騰が待っている。
もう一つは長期的なリスクだ。アキノ前政権は鉱山の新規開発を凍結する「モラトリアム政策」を2011年に始め、ドゥテルテ政権もそれを受け継ぐ。鉱山会社は埋蔵量調査中の鉱山を抱えたまま立ち往生している状況だ。ある鉱山会社のトップは「少なくともロペス氏が長官に居座る限り、モラトリアムが解除されることはない」と嘆く。
監査で「合格」判定が出たニッケル鉱山開発最大手、ニッケル・アジア・コーポレーションのジラード・ブリモ社長ですら、モラトリアム政策に気をもむ。「高品位のニッケルが取れる鉱山は寿命がそう長くない」からだ。
商社担当者によると、フィリピンのニッケル鉱石の最大の仕向け先である中国は、純度の低い中~低品位の鉱石を輸入している。製錬で生じるスラグに関する環境規制が緩いからだ。一方、日本は規制で低品位の鉱石を使うのは難しい。長期リスクが現実になった時、建築、家電、自動車など幅広い産業で供給不安を引き起こす恐れがある。
日本の非鉄金属会社の関係者は「政治の変化が資源価格を不安定にする場面が増えている」と指摘する。それはフィリピンに限った話ではない。

腐食・酸化に強い耐性を持つ。19世紀には既に硬貨として利用され、日本でも100円硬貨などに含まれる。地球上で5番目に多いとされる元素だが、採掘可能な量は少ないためレアメタル(希少金属)に分類されている。ナッツやチョコレートに多く含まれるが、体内に取り込まれても24時間以内に排出される。
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